「はじめくん、平助くん何処行くの・・・?」
期末テストが終わり、気が抜けたのと、急に寒くなり、又乾燥した空気の所為か、体調を崩し発作まで起して寝込んでいた総司の熱がやっと下がり、起き上がれるようになったのは終業式も終わった一昨日の事。
今日も歳三に一応寝てるように言われていたが、すっかり元気になってしまっている総司が暇を持て余し部屋を出てきた所で出かけようとしていた一と平助にばったりと会った。
「そ、総司??寝てなくていいのか??」
「総司、兄さんにまだ寝ておくように言われているだろう?」
「むぅ・・・もう飽きちゃった。寝てばっかりで腰痛いし、もう大丈夫なんだもん。ね、何処行くの?僕も行きたい」
「駄目だ。外は寒いし、兄さんにまだ静養しているよう言われてるんだろう」
「そうそう、総司を連れ出したのをトシ兄にばれたら俺らが怒られるしな」
「・・・・でも」
しゅん、としてしまった総司に二人は慌てる。
今日は歳三も左之助も新八も出掛けていていないのだ。
「総司、出掛けると言っても少し買い物に行って来るだけだ、直に帰ってくる」
「うん、帰ってきたらさ、一緒にゲームしよう?」
俯いたまま小さく頷く総司に、一と平助が顔を見合わせる。
基本的にこの兄弟はみんな末の弟に弱いのだ。
「そう言えば総司、島田がケーキを作っていたぞ、食べて待っていてはくれないか?」
「島田さんのケーキ・・・?」
「あぁ、総司のためにと言って張り切って作っていた」
「島田さんのケーキ美味いよな〜!総司買い物ついでにさ、こないだ出た新しいゲームも買ってくっからさ」
「・・・うん」
「それより、総司廊下は冷える、早く暖かい部屋へ入れ」
「うん・・・いってらっしゃい、早く帰ってきてね?」
淋しそうに言う総司に後ろ髪引かれつつ――最も、二人が揃って離れる時は決まって総司は淋しそうな表情を見せるのだが――二人は買い物へと出掛けたのだった。
「おや、総司坊ちゃん、もう起きてきて大丈夫なのですか?」
一と平助を見送った後、人の気配のあるダイニングへと足を向けると、島田の大らかな笑顔に迎えられた。
「・・・島田さん・・・もう大丈夫だよ」
いつもの笑顔の見えない総司に島田は心配気だ。
「随分顔色も良くなられましたね、紅茶をお入れしましょう、食欲はどうですか?食べられそうならケーキを食べませんか?」
料理長を務める島田は自身が好きなこともあり、暇があれば総司の大好きなスイーツを作ってくれるのだ。
「・・・食べたいけど、ご飯食べれないと歳兄にベットから出してもらえない・・・」
総司の食の細さは筋金入りだ。
普段から普通の女の子の食べる量よりも少ないのでは?というくらいしか食べないが、体調を崩すと輪を掛けて殆ど食べられなくなる。
「歳三様には島田が言っておきます、少しならいいでしょう?」
優しく微笑む島田に総司は小さく頷いた。
テーブルに着いた総司の前にミルクティと小さめのケーキが置かれる。
いちごの乗った生クリームのシンプルなケーキは総司が一番好む物。
「今日は総司坊ちゃんの好きないちごのケーキですよ」
「ありがとう」
「坊ちゃん、明日のクリスマスイブですが、ご馳走は何が良いですか?」
『クリスマス』と聞いて益々表情を曇らせる総司に、島田は心配顔を覗かせる。
イブは毎年風間家のパーティーに両親だけでなく、兄達も参加を義務付けられている。
高校生になった三つ子にも招待状が届いていたが、人混みが苦手で体調を崩しやすい総司の参加を歳三が許すはずもなく総司は一人留守番することになっている。
兄弟は居なくとも、島田を始め、信頼でき総司も心を許している人がいるからこそ一人で留守番なのだが。
そんな総司の為に作る夕食はせめて総司の食べたい物にしようと思っての質問だ。
「坊ちゃん・・・?」
総司も留守番は納得していたので、そのせいではないはずだ。
最も、総司自身がパーティーの類をあまり好んでおらず、桜鬼家主催のパーティーの時ですら必要最低限しか顔を出さないほどだ。
「・・・僕、プレゼント何も用意出来てない・・・」
イブとは反対にクリスマス当日は久々に兄弟でクリスマスパーティーを予定している。
「いつも、いつも迷惑ばっかり掛けてるのに・・・こんな時位何かしたかったのに・・・」
「今も、一君と平助君が買い物に行くって言うから、一緒に行って兄ちゃん達に何かって思ったのに、結局二人に気を使わせちゃっただけで・・・」
ぽつり、ぽつりと言う総司に島田は頷く。
「坊ちゃんはそんな事気にされなくてもいいのですよ、歳三様も、左之助様も新八様も一坊ちゃんも平助坊ちゃんも、総司坊ちゃんが元気で笑っててくれることが一番だといつも仰ってます。もちろん、島田も同じ気持ちです」
「島田さん・・・・」
「そうだ、総司坊ちゃん、今からでも間に合うプレゼント、一緒に作りませんか?」
「?作る・・・?」
「えぇ、島田がお手伝いします、お兄様方にお菓子を作ってプレゼントしてはどうですか?」
「僕に、出来る・・・?」
「勿論です」
「本当に?僕、頑張るから、宜しくお願いします」
ようやく笑顔が戻った総司に島田も嬉しそうに微笑むのだった。
「坊ちゃんは何を作りたいですか?」
漸く紅茶とケーキに手を伸ばした総司に島田が問いかける。
「う〜〜ん、歳兄は甘い物苦手だよね・・・左之兄もあんまり食べないし・・・何がいいんだろう」
「それなら、クッキーはどうですか?色々種類もありますし、甘さ控えめの物も作れます」
みなさん、総司坊ちゃんの作った物だったら何でも喜んでくださると思いますがね、と島田は嬉しそうだ。
「うん、明日ならみんないないしナイショで作れるね!」
「そうですね、では坊ちゃんもうお部屋に戻ってお休み下さい。歳三様に安静にしてるように言われてしまうと作れませんよ」
「うん、島田さんケーキ美味しかった。ありがとう。明日宜しくお願いします」
島田の笑顔に見送られにこにこ笑顔で総司は部屋へ戻っていった。
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