宝物 | ナノ


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顔を見るなり怒鳴りつけられるかと思ったが、意外にも、開口一番飛び出したのは「すまねぇ!!」という彼に似つかわしくない素直な謝罪だった。

冷めやらぬ怒りをぶつけられるのならば、意地っ張りな自分がまたしても壁を作っていたかもしれない。

だが、土方が己に正面から向き合ってくれている今ならば、変な意地など張らずとも言葉を交わすことが出来るかもしれないと思い、自らの言葉で抱えていた思いの丈をぽつり、ぽつりと紡ぎ出す。

「悪戯・・・するつもりじゃなかったんです。僕はただ、土方さんの手から筆を退かそうとしただけ。墨、乾いてなかったし、紙が汚れたら困ると思ったから・・・。」

「総司・・・。」

「でも、失敗しちゃって・・・飛んでった筆が硯にぶつかって、ぐちゃぐちゃになっちゃて・・・・・・」

「・・・っ。」

「だから、その・・・・・・ごめんなさい!!」

誠意を籠めて頭を下げる。
謝ったところで仕事を台無しにしてしまった事実が無くなるわけじゃないが、善意からの行為でも、結果として引き起こしてしまった不始末に変わりはないのだ。

何も言葉が返ってこない、頭を下げているから表情を窺い知ることも出来ない。
沈黙が、胸の奥をチクチクと針で刺すような痛みを生み出し、耐え難い緊張と不安を募らせる。

ふわり―――。

栗毛をあたたかい指先がそっと撫で上げる。
心地良い感覚に思わず顔を上げれば、いつもの、自分しか知らない優しい土方がそこにいた。

「もういい、総司・・・もういいんだ。わかってやれなかった俺を赦してくれ。」

「ひじ、かたさ・・・っ。」

撫でていた手を足の位置まで下ろすと、こっちへ来いと促すように手の平を向ける。

安堵の気持ちから瞳を潤ませる総司が、愛おしくてたまらない。
嬉し涙を見せるというのは、つまり・・・それだけ自分のことを強く想ってくれているということだから。

身を震わせ、中々一歩を踏み出せない総司を、一度として急かすことなく待っていてやる。
常に対等な立場で接するのが、相棒という関係の真実在るべき姿だと思うから。



「みゃうっ。」


かぷっ!!!


「っ、てぇえええええ―――っ!!?」

じれったい二人に業を煮やしたのは、その光景を間近で見ていたとしぞーだった。
すらっと伸びた中指に鋭い歯でもって容赦なく噛み付けば、顔色を変えた土方が場にそぐわぬ大声を発し、痛みに悶絶するが如く手を押さえる。

「なっ、何しやがんだ!!このクソ猫っ!!!」

「ふうううう〜っ!!」

敵意を向けられ、全身の毛を逆立てながら唸る。
同じ名を持つ二人が睨み合う様は、さながら総司を取り合う恋敵の図だ。

「・・・っふ、ふふ・・・、あはははっ・・・!!」

鈴が鳴るような楽しげな笑い声が響き、一触即発状態の二人の動きを止める。
見れば、としぞーの背に乗った総司の表情が、大輪の花の如き満面の笑顔へと変わっていた。



総司が笑うと場の空気も一変し、憂いを帯びた切なさは夕日の彼方へと消え去ってしまった。

改めて「帰るぞ」と促すと、迷いを無くした彼がこくりと大きく頷いてみせる。
そして、思い出したように「手の平を反してこちらに向けてくれ」と短く指示をされた。

大事に持っていた花冠を、大きな花が上に来るようにして指に引っ掛ける。
そのままするりと下ろしていけば、小人用の冠が人間用の指輪へと早変わりした。

「ごめんなさいの気持ちです・・・一応、ですけど。」

「・・・・・・。」

「な、なんですか!?気に入らないって言うなら別に・・・!!」

「あぁ・・・いや、性格に似合わず器用なことしてくれるなと思ってよ。」

「それって褒めてるんですか?馬鹿にしてるんですか?馬鹿にしてるなら赦さないですよ!!」

「馬鹿になんざしてねぇだろうが!!真面目に感心してただけだ!!」

「ふんっ。土方さんが『真面目に』なんて、嘘っぽすぎて信じられませんよ〜だ。」

土方の手に乗り移ることなく、としぞーの首をトントンと叩くと、ぷいっと顔を背けたまま走り去ってしまう。
先に行くなと追いかけてくる相棒を背に、林檎のように頬を赤く染めた総司は、気恥ずかしそうにくすりと小さな笑みを零すのだった―――。


― fin ―

2012.12.21



沢城さまから相互記念にいただきました。
掲載が遅くなってほんっとうにごめんなさい…。

沢城さまの『ちっちゃな相棒』シリーズが大好きで、総司が土方さんにいっぱい悪戯して構ってもらっている話、というリクエストをさせていただきました。

か、かわいい!!!!もうこのチマッとした総司が可愛くて仕方ないです!

としぞーをいい感じにあしらってるのもまたツボです。としぞーはとしぞーで総司のこと守ってあげてますし。

何から何までツボなんです!!

沢城さま、素敵なお話を本当にどうもありがとうございました!!!




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