「ん、あぁこれか…。総司、覚えてないか?おまえが入社してすぐウチの会社が開いた懇親会。これはそんときの写真だ」
「僕が入社してすぐ…?なんとなくですけどあったことは覚えてます。」
僕が入社したころは土方さんには職場に彼女が居たってこと?
懐かしむような顔で写真を見ている土方さんに少し心が痛んだ。
「俺が嬉しそうな顔して写ってる、か。これシャッター押したおまえだぜ」
「えっっ!」
「この女に一緒に写ってくれとしつこく言われてな、断ってたんだが…そんときカメラを押しつけられてたのがおまえだったんだよ」
何それ…そんなこと覚えてない。
「この写真の俺が嬉しそうなのはおまえに向けて笑っていたからだな。そのあと、この女に頼んで写真をもらったんだ。」
土方さんは写真の自分に苦笑いを浮かべた後、その写真にも負けないくらいの優しい顔をして言った。
「俺、けっこうおまえのこと好きなんだぜ」
僕の想像をはるかに超えた事実ばかりで、なんというか拍子抜け? でも、僕は土方さんを好きでいていいってこと、だよね。
あんなに悩んだのに、土方さんの笑顔を見るだけで安心できちゃうんだ。僕ってなんて単純。
自ずと熱くなってきた頬を隠すように土方さんから目線を反らした。
「なんだ、そうだったんですね。安心しました」
「ったく……そもそもなんでそんなに不安になってやがったんだ?俺を信用できなかったのか?」
「だって土方さんと会うのはいつもホテルだけだし、家に行ったこともないし…」
「そりゃあ、てめぇが関係を隠そうって言ったからだろ?俺だって色々我慢してんだ!」
「うっ…でも、それは土方さんの世間体を考えてですよ!僕だって色々我慢してるんです!」
「ったく、おまえみてぇなガキが余計な気ぃ遣うことねえんだ。甘えてろ、俺が受けとめてやるから」
土方さんとこんな風に話せるなんて、なんか嬉しいかも。もっと欲張ってもいいのかな…?
「…じゃあ土方さん、僕、あなたの家に行ってみたい」
「俺んチか?そんなんいつでも…………、いや、今は無理だろ…」
「えっ、どっちですか?ダメですか?」
「悪い……」
なんだ?
急に視線を泳がせ始めたし、口振りもはっきりしない
これは怪しい…よね
「……土方さん、まだ何かやましいことでもあるんですか?」
「ねぇよ、んなもん!」
「じゃあ、なんでダメなんですか?男の一人暮らしでしょうし、汚くても僕は気にしませんよ」
「そうじゃねぇよ!!!俺はおまえのためを思って言ってんだ!」
「っ…!? 信用しろって言うくせに…」
「ぁあ、なんだよ!?」
「いつもそうですよ!家には行けない、休日も会えない、ホテルで会えてもすぐ帰る、これじゃあ僕、愛人と同じじゃないですか!? こんなんじゃ、いくら好きだって言われたってあなたのこと信じられませんよ!」
今まで嫌われるのが怖くて聞けなかったこと。
もっと会いたい
もっと抱き締めてほしい
もっと好きだと言って
足りない、全然足りない…
僕を好きなら、もっとあなたを下さい。
あなたの特別になりたい、特別なんだって感じさせてほしい…
「はぁー、おまえ…そんなこと気にしてたのか…、くそっ…分かった、もう白状するよ」
土方さんから怒りとも諦めとも取れる言葉が聞こえて、はっと顔を上げる。
「そのかわり…おまえ、絶対に聞いて後悔するなよ」
「っっ!?…後悔なんてしません!教えてください」
結婚記念日や写真とか
土方さんが実はロマンチストだとか
今日は驚いてばかりだった。
だからこの時の僕は、これ以上の衝撃を受けるなんて微塵も思ってなかったんだ…
「どうしてホテルに泊まらないのかって?そりゃあ俺のロマンだ!!俺は好きなやつと初めて朝を迎えるなら、お れ のベッドがいいんだ!そこで寝惚けてるところで1発、風呂入りながらもう1発、飯でインターバルを置いてそのあとは延長戦だ! はぁ?絶倫? そりゃあ光栄だな。てめぇもこれに付き合うんだから似たようなもんだろうよ」
「休日は何してんのかって?……俺はな、総司、おまえが喜ぶことをしてやりてぇ。でも何が好きでどんな価値観を持ってるのか全く知らねぇ。だからな、おまえがどんな風に過ごしてるのかを知りてぇんだ。………そうだ、俺の休日はおまえの情報収集だ。おまえんチにも来たのかって?そりゃあ何度も行ってるさ。おまえが出掛ければついていって同じものを眺めた。おまえが買ったものを俺も買った。おまえと一緒に過ごしていたんだ。…ストーカーみたい、だと?何言ってんだ、真面目におまえを愛してるだけだよ。好きになっちまったら誰だってそんなもんじゃねぇか?」
「俺んチはどうなんだって?……俺はな、総司、おまえを愛してるんだ。おまえを見るだけで幸せだ。おまえが触れたものは全て欲しくなる。おまえのものだと思うだけで1発イケる………最近おまえのデスクから物がよく無くなるって?そりゃそうだろう、俺が 借 り て るんだからな。壁にはもちろんおまえの写真(隠し撮り)だ ……おまえを家に連れ込んで俺のロマンを実現したいんだがな…この総司グッズをおまえが見たら、と思うとな。休みはおまえの情報収集だし、片付けるのも勿体ねぇ。 でもおまえが気にしねぇってんなら俺も気にしねぇ。よし、これからウチに行くぞ!俺を疑う余裕もないくらい愛してやる。ほら総司、急げ!」
僕はとんでもない人を好きになってしまったみたいです。
次はちょっとオマケです。
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