――「すみません遅くなりました!よろしくお願いします」
パソコンの画面に集中していた俺は隣の部署から聞こえてきた声に咄嗟に顔を上げた。
あいつだ、沖田だ。
あいつがこの階に来るなんて滅多にねぇのに…やべぇ今日はツイてるぜ。
ついつい緩みそうになる頬を理性で抑えて、あいつの姿を視線で見送る。
自分の部署に戻るのだろうか、俺の部署の前を通り抜けエレベーターホールの方へと向かっていく。
ちょうど昼休憩のため俺の部署の奴等はほとんど出払っちまっていて、今この空間には俺と総司しかいない。
仕事のできねぇ野郎ばかりだがよくやった。
総司の姿が見えなくなると、至福の喜びに浸りながら画面へと視線を戻す。
今日は仕事もはかどりそうだと思っていると、
「お忙しいところすみません」
かなり近くから聞こえた声に反射的に顔を上げる。
そこには柔らかい笑みを浮かべるあいつがいた。
「すみません、廊下にこちらの部署の永倉さんって方の名札が落ちてたのですが…」
総司が声を掛けてきた驚きに圧倒されてしまい、俺は大した返事もできなかった。
「…ぁ、ああ。わざわざすまなかったな…」
「いえ。では失礼致します、土方部長」
「っ!!!?」
あいつが 総司が 俺の名前を 呼んだ
初めて
総司が
俺の名を
あぁ、なんだこれは?…この溢れる幸せは、高揚感は。
あいつが俺だけを見て名前を呼んだ、俺はそれを受け入れた。
相手を受け入れることが“愛”だと、どっかの野郎が言っていたが…
ああ、これが愛なのか、アムールなのか…
あぁ浮かぶぜ
俺と総司の愛のカタチが…
これが結婚なんじゃねぇか
誰が何と言おうと、結婚しかねぇだろう おい…
俺は部署の野郎が戻ってくるまで、放心状態で総司の姿が見えなくなった廊下を見つめていた。――
「という訳で、総司と俺の結婚記念日だ」
なんだそれ?
僕はもう呆気にとられて、喜んだらいいのか笑ったらいいのか…
ただ、土方さんが結婚していないということは事実らしい。
「…あっ…そう、だったんですか?僕と土方さんの……。じゃあ僕の勘違い…?」
「そうだ、おまえの勘違いだ。驚かせやがって。別れ話されんのかと焦ったぜ」
「だって…。でもそんな疑われるようなことを書いてる土方さんも土方さんですよ!まさか僕と土方さんの、とは思わないじゃないですか!?男同士じゃ結婚なんてできないんだし!」
「大丈夫だ、問題ない」
「何その自信?本当意味分からないんですけど…」
土方さんの掌で踊らされているようで悔しかったけれど、土方さんが結婚してないと分かって体中の力が抜けるくらいホッとした。
でも、そこで思い出した。
「でも土方さん。手帳に女の人との写真が挟まってましたけど、あれは何ですか?土方さんすっごく嬉しそうな顔で写ってましたよ」
「…写真?」
土方さんは徐に立ちあがって手帳を取ってくる。挟まっている写真を出しながら、ベッドに座る僕の隣に腰かけた。
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