「おーい、名前〜」
「はーい」


いってきます。とリビングで眠そうに朝食を食べている父に声を掛けてから、扉を開いた。少し顔を上に向けると視線が合いどちらともなく、おはよ。と微笑み合う。行くか。と言ったエースに頷き、並んでこのマンションのエレベーターへ向かいボタンを押した。

だけどエレベーターは最上階の10階からなかなか降りてこない。


「階段で行くか?」
「えーー」
「見ろよ時間」


エースが腕時計をこちらに見せて来て、遅刻する。と言ってくるけどすぐに時計から目を逸らした。


「おい、反らすな」
「だって〜、ここ7階だよ?階段なんてしんどすぎる!」
「そんなん言ってたら遅刻するだろ!ほら、行くぞ」
「えっ、うそっ」


途端に手を掴まれエレベーターのすぐ横にある階段に連れられた。猛スピードで下るエースにぐいぐい引かれ、足がもつれそうになりながらもなんとか1階まで降りる。


「はぁっ、はぁっ」
「おい休んでる暇ねぇぞ、行くぞっ!」
「えっ、ちょっと待って、え〜!」


息つく間もなくそのまま手を引かれ、走り出すエースを必死に追いかける。
学校近くまで来れば、登校している生徒達がたくさんいて、とりあえず遅刻は免れたと安心したのだが、エースはスピードを緩めない。


「エ、エース!もうみんないるし大丈夫でしょ!歩こうよ〜」
「ここまで来たし走って行こうぜ!」
「はぁっ!?」


振り返って楽しそうに笑うエースは走りを止める気はないらしく、またわたしの手を解放する気もないらしい。体力馬鹿のエースとは違い普通人間のわたしには理解できない思考にため息をつくことも出来ず、ただただついて行くことに必死だった。


「は、はぁっ、な、なんで朝からこんなっ…走らなきゃいけないの…!!」
「はっはっ、つい楽しくてよ」


正門に入り、エースから解放されたわたしは、やっとの思いで膝に手をつき息を整えた。息一つ乱れていないエースを睨みつけるも返ってきたのは笑顔。


「でも元を辿れば朝出てくるの遅いお前が悪い」
「そっ、それは…!!」


ビシとわたしに人さし指を向けるエースに反論しようとするも紛れも無い事実に何も言えなかった。もう大丈夫か?と手を差し伸べてくれたエースの大きな手を掴んで体勢を戻した。


「ははっ、髪ボサボサ」
「誰のせいだと…!」


エースの手が頭に乗せられ髪をぐしゃ。と遊ばれた。それに抵抗し何か仕返してやろうと思ったのもののエースはすでに靴箱の方へ逃げていて、わたしの手は届かなかった。










「苗字さん!これ!」
「え?」


昼休みに呼び出され、突然目の前に差し出されたピンク色の封筒に顔が引き攣る。続くであろう言葉がすぐに浮かんだからだ。


「エースくんに渡して!」
「え、いや、ごめんわたしそういうのは…」
「幼なじみなんでしょ?協力してよ!ね!」
「いや、あの」
「よろしくね!」


封筒を手に押し付けられ、結局何も言い返せないまま押し切られてしまった。そんな自分に思わずため息が溢れる。


「ハァ…」
「モテ男の幼なじみは大変ね」
「ナミ…」


ポンと肩を叩かれ顔を上げれば呆れたような表情のナミが手紙を見つめ、こんなの自分で渡せばいいのに。と呟いた。


「ほんとにそう思う」


幼なじみだからってわたしに頼んだところでエースは喜ぶとでも思っているんだろうか。少し勇気を出して直接渡した方が印象にも残ると思うけどな。


「きゃー!エースくんが走ってる〜!」
「ほんとだっ!カッコいい〜!!」


いや、普通に走るでしょ。今朝だってわたしも巻き込んで猛ダッシュしてたわ!

教室の窓からグラウンドに向けきゃーきゃーと黄色い声を上げているクラスメイト達に心の中で悪態をつく。


「名前、顔ひどいわよ」
「えっ、うそ!」
「眉間にしわ寄ってる、型がつくわよ?」


面白そうにわたしの眉間をついたのは親友のナミ。高校に入学してからずっと一緒にいる、美人なのにサバサバしていて、面倒見の良い性格の彼女はなんでも話せるお姉さんのような存在。同い年のはずなのにいつも考えが大人で驚かされるし憧れる。


「あの子達またエース?」
「そうみたい、走ってるだけできゃーきゃー言ってるの、走ることがそんなにすごいの?意味わかんない」
「ま、エースのあのモテっぷりには毎度毎度腹が立つわね」
「それはナミもでしょー」


ナミもそれなりにモテる。彼氏はいないみたいだけど、メロメロなサンジくんをいつも上手く使ってる。サンジくん本人はわかってて嬉しいみたいだから何も言わないけど。


「んナァ〜ミすわぁ〜ん!名前ちゅわ〜ん!食後のデザートはいかが〜?」


くるくると踊りながら廊下からやって来たのは隣のクラスのサンジくん、本人だってカッコよくて、それなりにモテるのに、入学式の日にナミに一目惚れしたらしくそれから彼女一筋な男の子。


「あらサンジくん、作ってくれたの?」
「さっき調理実習だったんだ、まぁ配られたレシピにかなりアレンジ加えちまったがな」
「サンジくんのアレンジなら絶対美味しいわね!名前も貰いましょ」
「うん、ありがとうサンジくん」
「そんなぁ〜、2人に食べてもらえるならおれも幸せだよ〜」


可愛いらしいマフィンを受け取ると、またサンジくんはくねくねと不思議な動きで喜んでくれた。


「そういや、エースのやつも凄く真剣に作ってたよ」
「エースが?」
「うん、誰かにあげるんだってさ」
「あのエースが!?」
「明日雪でも降るんじゃないの」


食べ物に対する執着がハンパないあのエースが人にプレゼントだなんて信じられない。未だグラウンドで遊んでいるエースを口を開けて呆然と見てしまった。


「まぁおれのには遠く及ばないけどね!」
「あははっ、それはそうだね」







「名前、腹空かねぇ?」


帰り道並んで歩いていた時にエースから発せられた。


「え、まぁそうだね、空いたかも?」
「疑問系かよ…」


もう夕方で、お昼からはかなり時間が経ってるし減っていると言えばそうなんだけど、こんなの毎日のことだし、今更だなぁなんて思った。
あ、そう言えば今日はサンジくんからもらったマフィンがあったんだった。


「今日エース調理実習だったんだよね?」


わたしはサンジくんのマフィンを取り出そうと鞄に手を入れた。


「おう!それでよ…」
「実はサンジくんからもらって…」


「これ半分こする?」
「これ名前にやる!」


わたしがサンジくんのマフィンを取り出せば同時にエースもマフィンをわたしに差し出していた。

目をぱちくりさせて2人とも立ち止まった。


「え?わたし?わたしにくれるの?」
「そうだよ、なのに何サンジから貰ってんだよ」


エースが少し拗ねた様に頬を膨らませる。

だけどわたしの頭の中ではお昼のサンジくんの言葉を反芻していた。

“エースのやつも凄く真剣に作ってたよ”

“誰かにあげるんだってさ”

わたしのために真剣に作ってくれたってこと…?エースの手の上には、少し不恰好な形のマフィン。確かに、綺麗に飾られているサンジくんのには遠く及ばない、だけど、不器用なエースが真剣に作ってくれたのだと思うと、心がじんわりと温かくなった。


「名前チョコ好きだから、チョコチップ入れた」
「あ、ありがとう…」


エースからマフィンを受け取る。するとわたしの手からはサンジくんのマフィンがエースによって取られた。


「てことでこれはおれが食う」
「うん」
「……ダメって言うかと思った」
「それ以上にエースのマフィンがすっごく嬉しい」
「お前、それはずりぃ…」








「おうサンジ!お前のマフィンすっげー美味かったぜ!!」
「はあぁぁ!?何でお前が食ってんだ!あれは名前ちゅわんのために作った渾身の一品……!!!」


続かない。

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となり。書く前に試しで書いてみた幼馴染現パロ。
ここから広げるつもりだったから少し設定が似てますが、見たい人もいるかなーなんて思って上げてみました。タイトル考えるのさえめんどくさかった…。




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