「そういや、名前、彼氏できたのかよい?」
「ブッ!!」
今日は昔から世話になってるオヤジの家で仲間たちと集まって飯会が開かれていた。みんなでわいわい楽しく食って飲んでしてたのに、途中放り込まれたマルコの言葉におれは飲んでたジュースを吹き出した。
「え!まじでか!?」
うそだろ…。とショックを受け、頭を抑えるサッチ。出来てなくてもお前のところには行かねぇよ。
おれはマルコに視線を戻しなんで?と聞いた。
「いや、この前大学の食堂で男と喋ってるの見かけてよい、声かけようとしたんだが、やめておいた」
そういや、マルコと名前同じ大学だった。名前にとってマルコは先輩にあたる。つかかけろよ!声くらい!
相手はあいつだろ、クソファルガー、この間の根暗野郎。くそ、あいつまだ名前に関わってきてんのか…。
サッチが涙目で縋るように腕を掴んできた。
「おぉい、エースー、まじかよ、名前ちゃん彼氏いるのかよ?」
「おれは聞いてねぇけど…」
「マジで!!」
「でも心当たりなら……」
「あるんだな」
言ったマルコに頷き返せばサッチはガーンと音を立てしゃがみ込み地面にのの字を書いていじけはじめた。そんなサッチは放っておいてマルコを見る。
「トラファルガーってやつなんだけど、知ってるか?」
「医学部のだろい?よく女たちが騒いでたから知ってるよい」
「え、そうなのか」
まさかマルコが知るほどの人物だったとは。こいつは人の観察が上手いけど、すげえ奴じゃねぇ限り名前を覚えるまではしないやつだ。女子が騒いでたと言ってもマルコが覚えるほどだとそれなりの実力者なんだろう。
「ルックスがあれだろい。そんで常に学年トップをキープしてるらしいし、今の時点でいろんな病院から卒業後の就職先として声がかかってるらしい。あとファンクラブがあるってことくらいか」
「なんか他に欠点はねぇのかよ」
「まぁ…、女と絡みたがらねぇんで女嫌いって噂があったくらいかよい」
「とことんムカつくやつだな」
いつのまにか復活したらしいサッチが口を挟んだ。
おれもファンクラブほしいー!!と悶えるサッチをおれとマルコは冷めた目で見降ろした。
「つか。そんなやつがなんで名前に絡むんだよ」
「そりゃあそういうことなんだろうよい」
「チッ、だよな」
どうすっかな…。今まで名前を狙ってそうなやつは結構いたけど、名前自身鈍感ってのと、相手の男がガツガツいくようなタイプじゃなかったってので名前が気付かず終わるパターンが多かった。
しかしだ。トラファルガー、あんなタイプのやつは自分に自信があるだろうし、何してくるかわからねぇ…。どうにか名前が丸め込まれねぇようにしねぇと…。
「エース、やっぱりお前…」
「あ?」
「いや、なんでもねぇよい」
マルコは勘がいい。誰にも言っていないこの気持ちをこいつは知ってるんじゃないかと時々思うことがある。
「お前には言ってなかったが、高校の時、おれらの代でも名前を狙ってるやつが何人かいたんだよい」
「は?なんだそれ、聞いてねぇ」
唐突に始まったマルコの話に眉が寄る。
名前とマルコたちは一学年違うから、くそ羨ましいことにこいつらは2年間も名前と同じ高校に通ってた。
マルコの話だと学年の違う男子どもからも名前は人気があったらしい。だけどマルコたちがいた2年間、名前が誰かに告白されるってことはマルコの知る限りなかったらしい。その理由が…
「こいつだよい」
マルコが親指を向けたのは、床で項垂れているリーゼント。
おれは、は。と訳が分からず口に出していた。
「こいつが名前に近付こうとする男子には片っ端から睨みきかせて牽制してたんだよい」
「まじか」
初めてサッチに感謝した気がする。お前いいやつだったんだな…!…名前はやらねぇけど。
「とにかくトラファルガーをなんとかしねぇと…」
「悪いやつじゃなさそうだが、名前を危ない目には遭わせないよい」
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