会社帰り、つり革に掴まりガタンゴトンと電車に揺られて帰る。これはいつも通り。
しかし、隣には、今日偶然一緒に上がったエースくんがいる。彼は背が高いからか、つり革がぶら下がってるパイプ部分に手を掛けているみたいだ。
……今日は疲れた。
こんなにあっつい真夏日に、ちょうどわたしの部署がある部屋の空調が故障したのだ。
午前中汗だくになりながら働き、お昼はゆっくりしようといつものお気に入りのカフェに足を運べば今日に限って大混雑。なんでも昨日テレビで特集されたんだとか。
電車で立つことなんていつも通りなのに、ここまで不幸が続くと目の前でウトウト眠るサラリーマンのおじさんにさえもイライラしてきた。って…ただの八つ当たりじゃん…。
「はぁっ…」
「なんだよ?ため息なんかついて」
「なんか今日一日やなこと続きだなぁって思って」
「あー、ま、冷房効かねえってのは災難だったな!」
ちなみに彼とは同期だけど部署が違う、だから空調故障の被害は彼には無だ。
他人事だと思って笑顔を見せる彼からぷいと顔を背けた。
「あー、なんか癒しが欲しい」
「癒し?」
「うん…、犬でも猫でもなんでも…」
「彼氏はいねーのかよ?」
「残念ながらいませんー」
へー。とか言っているエースくんに、やな事考えさせるな。と心の中で呟いておく。
彼氏なんてもういつからいないのか覚えていないくらい。社会人になってからは仕事が忙しかったし…、あぁ、大学の頃だからもう4、5年になるのかぁ…。
ほんと、わたし何やってんだろ。
そういえば前にFB見てたら、ナミやコアラも彼氏出来たって言ってたなぁ。
わたしだけ取り残されてる……!!
彼氏かぁ……、欲しいなぁ……。
「わたし、次告白されたら誰とでも付き合っちゃうかも…」
「まじで!!?」
「えっ……?」
わたしの吐いた冗談にエースくんは大きな声で反応し、目を丸くしてわたしを見た。
「ど、どうしたの?」
わたしが尋ねるも彼は少し考えるような仕草をしてから、わたしの手を取って両手で握った。
「へ、へ…?」
もう全くついていけないわたしを、エースくんは今までにないくらい真剣な目で見つめた。
「好きです、付き合って下さい…!!」
「えっ……えぇっ!!?」
彼の言葉の意味をすぐには理解できず、わたしは上手く言葉を返せなかった。
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