「あづーーー」
「あぢぃーー」
そんな声が船内各所から聞こえる今日は夏島の気候に入ったらしく、途端に暑さが増した。
まぁ確かに日差しがキツイな、暑いなら中に入ってろよ。と言いたくなるが船内も蒸し蒸しとしてるな。と思いやめた。パイプを口に咥えて日陰を探そうと歩いていれば突然掛けられた声
「イゾウはさ、暑くねェの?」
そんな服着て。と後に続けた末っ子エースはきょとん。とおれを下から上まで眺めながら呟いた。お前も暑くなさそうなのになんでおれに聞くんだと思い首を傾げるとエースはほらと続けた。
「おれは火だから暑くねェけど、みんなあんなじゃん」
ほぼ裸の様な状態で甲板に寝転がっている船員達を指差してうげぇと顔を歪めたエース
「おっさんの裸なんて嬉しくねェ」
「お前だっていつも裸だろ」
冬島でも誰かに言われて気付くくらいなのに、そう言ってもおれは火だから大丈夫!で済まされる。
「で。こんなクソ暑い日になんでそんな重ね着してんだ?」
「お前、おれの服いつも同じだと思ってるだろ?」
「え!」
違うのか!?と言わんばかりに見開かれた目に少しため息を溢した。おれだってこんな暑い日にアホみたいに着込んだりしない。
「今日はいつも着てるのより布が薄い、それに形も少し違う」
「えー、わかんねェ。脱いでる方が涼しいだろ」
「直射日光が当たるほうが暑い、こうしてるほうが涼しいぞ」
「へー」
そんなもんか?とおれの服の端をピロピロと摘まんだエース
「あれ、今日はイゾウ浴衣?」
大量の洗濯物を抱えた末の妹が通りかかり、今までむさ苦しかった甲板に高い声が響いた。
よくわかったな。とおれが返すが、その間にエースのやつが慌てて大量の洗濯物を奪い取り、そういう時はおれを呼べ!なんて言ってやがる
「あはは、今日は暑いからもう乾いちゃって、ありがとうエース」
よく見りゃ今日の末妹の服装も、ノースリーブに涼しげなスカートそれに髪もサイドで束ねていて、すっかり夏仕様だった。
「浴衣いいな〜、わたしも昔着たよね」
「あぁ、ワノ国の夏祭りに行った時だったな」
「そうそう、イゾウに着付けてもらって」
懐かしそうにエースにその話をしているが、エースは洗濯物を落とさないようにその話に耳を傾けていた。
「すっごく可愛かったんだけど、あたし転んじゃって」
「下駄に慣れてなかったからな、しょうがねぇ」
「げた…?」
あの時は、マルコが夏祭りに連れて行ったんだが、途中で転んじまってその場にいた子どもらに笑われたんだっけか。その日は泣いてマルコの肩に担がれて帰って来たな…。
面白いのは次の日だ。毎日下駄で過ごす!って言いだして、そうしたのはいいものの、一日で足がボロボロになってまた泣いたんだったな。
「あの時は二度履くもんか!って思ったけど、もう一度着たいなぁ」
「おれもっ!」
「いつでも着付けてやるよ」
「ほんとっ?」
やったぁ!と笑顔になる妹に俺もなんだかんだ兄バカか…。と思っていると、誰よりも重症な親バカがやって来た。しかもいつも羽織っているシャツは着ておらず上半身はエースと同じ裸
まぁうちの妹はこんな男所帯で10年暮らしてきたもんだからとっくに見慣れたらしく、新人ナースのように顔を赤らめたりなんてしない。それもどうかと思うがまぁ別に困らないし
「悪いんだがあいつらに海の水掛けてやってくれねェかよい?少しは涼しくなるだろ」
あいつら。と甲板で干からびたように転がっている船員たちを指差した。
「うん、りょうかいっ」
「あ!洗濯物どうする?」
「水かからないように船内に入れておいて」
「おぅっ」
「じゃあおれは、食堂にでも行くか」
そうだ、サッチにかき氷でも作らせよう。夏祭りのことを思い出したら食べたくなってきた。バテてるやつらにも食わせりゃいいしな
「サッチ、かき氷くれ」
「え!?いきなり何イゾウ!!何いつも頼んでるみたいな言い方してんの!?ここのレギュラーメニューにかき氷なんてねェよ!?」
「おれもかき氷!」
「おれも〜」
「おれもッス!」
「なんなんだよ!お前らァ〜!」
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