ピュウ。と風が吹き、わたしの髪もこいつの髪も揺れる。


昔はツンツンしてたのに…いつからだ…。


わたしの膝を枕にして、わたしの腰に手を回して、わたしのお腹に顔を埋めて眠るヤツの癖っ毛を撫でると、ニッ。と笑顔を見せたエース。



「なんだよ」
「起きてたの?」
「おう」



昔…、エースが10歳、わたしが15歳の頃はわたしの言う事なんて全く聞かず、全然話もしてくれなかった。
唯一毎日言われた言葉は、おかわり。くらいだ。

弟のルフィの方はずっとわたしのことを慕ってくれて、いつもくっ付いてくれてた。
そういえば、それも気に食わないのかやたらとわたしとルフィを引き離して来たな…エースのやつ。

なんとなく腹が立ってペチとエースの額を叩いてみたが、イテ。と呟かれただけだった。



「なにすんだ」
「なんとなく?」
「ハァ?」



こっちだって、あの頃はハァ?って思うことがたくさんあった。わたしが、ルフィに三人がよく遊んでるって言う森の中に連れて行ってもらった時、エースはわたしを睨みつけて、ルフィにむかって叫んだんだ。
二度とこいつ連れて来んなァ!ってね。はいはい、わたしは邪魔者ですよ。



「何怒ってんだ」
「別に」
「じゃあこれなんだ」



下からエースの手が延びてきて両頬を摘ままれる。と、ぷすっと音が鳴った。
あ、知らないうちに頬が膨らんでた…。



「ほら怒ってる」
「怒ってないってば」



というか、よくよく考えてみれば、わたしが海賊になったものエースに無理矢理連れ出されたんだったっけ。
あれ。わたし、海賊になりたいなんて言ったことあった?
ルフィからはよく海賊王になる!って聞いてたけど…、わたしは普通に一生ダダンさんの家で暮らす予定だったのに…。

ある日、気が付けば船の上にいた。



「わたしってさ…海賊になりたいなんて言ったことあったっけ?」
「んー…。ねェんじゃねェか?」
「だよね。なんでここにいるんだろう…」
「嫌なのかよ?」
「嫌…ではないけど…」
「じゃあいいじゃん」



はぁ…。あんな島でもカッコ良い人いたのにな…。その人にデートに誘われて待ち合わせ場所に行ったら何故かエースがいたし、それで連れ戻されたし…。喋らないし…。あの時は本当に頭に来たな。

でもまぁ、今更この船を降りる気なんてないんだけどね。
今となっては良かったとは思ってる。白ひげ海賊団の船に乗って、たくさんの家族ができたし…、それもエースのおかげ…っていえば、まぁ、そうなるのか…。



「不満そうだな」
「不満じゃないよ」
「おれは不満だな」
「何が」



いつもいつも自由奔放に生きてきたくせに、わたしも道連れにして。



「お前ってさ、バカ?」
「ハァ?」



バカにされた。年下の、しかもエースに。



「なんで分かんねェかな」
「は?」



またエースが手を延ばし、それをわたしの頬に添えた。そして、しっかりと目を合わせられる。



「すき」
「……え?」



いや、何言った?この子。え?子どもの頃から散々色んなことしてきたのに…?



「あれだろお前、子どもの頃のこと気にしてんだろ?」
『あ…うん』



エースはハァとため息をつくと、私の手を取って自分の指と絡めた。



「喋らなかったのは恥ずかしかったから」
『…』
「森に来た時に怒ったのは危ねェから」
『…』
「男ぶっ飛ばしたのは…、あれだ、デートなんてさせるわけねェだろ」
『え!…ぶっ飛ばしたの!?』
「あたりまえだ、あんな貧弱野郎に渡すか」
『は、はぁ…』



うわぁ…かわいそうに…。名前さえも覚えてないけれど、ごめんなさい…!!



「なぁ、返事は」
『えっ…』



エースはあっさりこんなこと言っちゃってるけど、一応歳の差五つもあるよ?しかも、私のが歳上だし…。まぁ、エースのことだから歳なんて関係ねェ!とか言うんだろうけど…。

私の気持ちは…どうなんだろう



「お前さ、なんでここまで俺について来たんだよ?」
『いや、ついて来たっていうか…』



連れて来られたって表現の方が正しい気が…。



「でも、そんな半端な気持ちでここまで来れねェだろ」
『…うん』
「つまり、お前も俺が好きなんだ」
『……うん…?』



なんか無理矢理な気もするけど、合ってるような気もする…。
なんだかんだで私はエースのことが好きなのかもしれない。
待ち合わせ場所にエースが来た時もそれまでのソワソワなんか何処かへ飛んでって安心感みたいなものがあったし、船の上で目が覚めた時も、エースがいて安心した。



『そう…かも…?』
「かもってなんだよ、そうだろ。」



エースは私の頬に右手を添え、左手を床につけて顔を近付けて来た。と、すぐに触れるお互いの唇。

なんだか頭がボーッとした。エースのことはなんでも知ってるつもりだったけど、エースの唇がこんなにも柔らかいなんて知らなかったし、キスなんてものも初めてだった。

顔が離れるとへへっと笑ったエースはすぐに私を抱きしめた。

昔は私よりも小さくて弱かったくせに…、いつの間にか私よりも大きくなってて、私よりも強くなってたんだ。



「なぁ、すきだろ?」
『…うん、すき。』



すると身体が離れてエースの満面の笑みが目に入った。



「やっとだな!」


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