2月___

高校三年生のわたしは卒業目前の受験生真っ只中。クラスでは進路が決まった子がほとんどだが、まだ一生懸命勉強している子もいたり…。
わたしは後者、滑り止めの大学は受かったけど、本命の試験は3月に入ってからだ。



「名前ー!!教科書貸してくれ〜」



そんなわたしには小さい頃からずっと一緒の幼馴染みがいる。家もクラスも隣同士で昔からよく遊んでいた。
うちのクラスの窓から顔を出すエースはもう就職先が決まったらしくて、今は遊びまくっているらしい。



「あ、うん。ちょっと待ってね」



こんな時期の授業なんてあってないようなもの、それにエースはもう勉強しなくていいのに教科書なんているのかな?なんて思いながらも慌ててロッカーに取りに向かうと、聞こえて来る女の子達の声。



「エースくん、私の貸してあげよっか?」
「あたしの貸してあげるよー、ちゃんと大事な所に線引いてあるし!」
「あー、悪りィな、名前に借りた方が家に返しに行きやすいから」



エースはモテる、そりゃあもうものすんごく。顔もそこそこだし、何より性格が最高に良い。人懐っこく、誰にでも平等に接するエースは学校中の人気者だ。

実はそんなわたしもエースに恋する1人。昔はエースの隣はわたしの居場所だったのに、いつの間にかいろんな女の子達のものになっていた。



「名前〜早く!チャイム鳴っちまう!」
「あぁ、ご、ごめんね。はい」
「サンキュー、また家に返しに行くわ、今日も塾か?」
「うん…、10時とかになっちゃうけどいい?」
「おう!こっちこそありがとな!」



そう言うとすぐさま自分の教室に戻って行ってしまう。でも、他の子のを断ってくれてなんだか嬉しかった。
自分の席に戻ろうとすると突き刺さる視線。でも、もうそんなの慣れっこだ。一年の頃はずっと言われていた、エースにくっ付いてこの学校に来た。とか……


違う、本当はそうじゃない。高校受験に失敗したんだ。第一志望だった進学校に落ちてここへ来た。あの頃はエースがたくさん慰めてくれた。
もうあの頃みたいな思いはしたくない、だからこの受験は必ず成功させるんだ!!



「名前、大丈夫?」
「え?なんで?」
「頑張りすぎじゃない?顔色ちょっと悪いわよ」
「そんなことないよ、ありがとうナミ」
「だったらいいんだけど…」



二年の頃から同じクラスのナミ、一年の頃エースのことで友達が出来なかったわたしに普通に話し掛けてくれた大切な親友。

ナミは専門学校への進学が決まっている、それでも残りの勉強にも手を抜かないしっかりした子だ。



「受験終わったらたくさん遊びましょうね」
「うん!」






















「ふー、……疲れた」


塾から帰って部屋に戻ると一日の疲れが一気に押し寄せる。ベッドの上でうつらうつらしていると、家のチャイムが鳴った。と、すぐに母からエースが来たと呼ぶ声。

すぐに髪を整えドアを開くといつも通りニッカリ笑ったエース。



「おぅ、こんな時間に悪りぃ。これありがとな」
「ううん、わざわざごめんね」
「借りたのおれだし、最近名前と会ってなかったしな」



元気か?なんて聞いてくるエースに苦笑が漏れながらも元気だよ。と返す。



「ほんとかよ?お前、無理してねェ?」
「大丈夫だって、もうすぐ受験だから気張ってるだけ」
「まぁ、もうすぐ卒業だしさ、あんま頑張りすぎんなよ」
「うん、ありがとう」



わたしの頭をポンポン叩いて心配そうに覗き込むエースに嬉しさが募る。今のこのエースはわたしが独り占め出来てるんだ。



「今日さ、ルフィとあの公園行ったんだ、昔よく遊んださ!」
「あ、あの桜が綺麗な?」
「そう!また、一緒に行こうな」
「そうだね!」



エースと別れ、部屋の椅子に座る。
エースと少し話しただけなのにさっきまでの疲れが何処かへ飛んで行った気がした。もう少し頑張ろう。

エースに貸した教科書をパラパラ見ているとある箇所が目に入った。



“春になったら遊びに行こうぜ!”



そんなただの落書き。

それでもわたしのやる気を起こさせるのには十分だった。






3月___


高校も卒業し、わたしの塾と家の往復生活も終わりを迎えようとしていた。


明日はいよいよ試験日


卒業式の日以来エースとは一度も会っていない。家は隣同士なのにな…。

またあの教科書の落書きを見る。

くじけそうな時、さみしい時、涙が出そうな時、何度もこの落書きに救われた。
エースはもう忘れちゃってるかもしれないけど、このラクガキがわたしを救ってくれたんだよ…。



pipipipipi…



「メール…?」



ナミからはさっき電話が来た、頑張ってね!って…、まだ何かあるのかな?



“大丈夫だ、お前ならきっとうまくいく!”



送信者の名前を見ると“エース”の文字。

涙が溢れそうになった。



「元気、出たよ…」



決めた。この受験が終わったら、エースに私の気持ちを伝えよう…。






















4月___


わたしは無事第一志望の大学に合格した。ナミに報告した時は泣いて喜んでくれて、本当に頑張って良かった…。


エースには…
まだ話せていない。直接報告したくて何度か家に行ったんだけど、エースも入社に向けていろいろ忙しいらしく、毎回弟のルフィが出迎えてくれた。



昨日、入学式を終えたわたしは今、あの公園のベンチに座って桜を見ていた。

やっぱり、あんな約束、エースは忘れてるよね…。
もう、このまま離れてっちゃうのかな…。



「エース…」



RRRRR…



「うわっ…」



突然の着信に驚きつつも確認すると表示された名前は…


“エース”


慌ててケータイを持ち直し通話ボタンを押す。



「も、もしもし…?」
「よぉ」
「よ、よぉ」
「いや、ちょっと声聞きたくなってさ…、今何してる?」
「い、今は…、あの公園にいるよ」
「マジか!?すぐ行く!」



ブツッ!



勢いよく切れた通話に驚きつつも、エースが来るのかー。なんてボーッと考えていた。



「名前ッ!!」



振り返ると走って来たのであろう、息を切らして公園の入り口に立つエースを見て、思わず笑顔になる。



「ハァ、ハァ、なんで笑ってんだ」
「エース、わたし受かったよ」
「ほんとか!!てかなんでもっと早く言ってくんないんだよ!」



入り口からずんずんこっちに向かって歩いて来るエース、少し怒ってる?
でも、エースに会えたのが嬉しくてそんなの気にならなかった。

そうだ…。決めてたんだった。


未だにぷんすか怒りながらこちらに向かって来るエースを見て少し切なくなる。もしかしたら、もうこんな風に会えなくなるかもしれない、でも、ちゃんと伝えなきゃ…。



「エース、あのね、私ね………ッ!?」

「好きだッ!!」



少しずつ、顔が下がって行くが、いきなりエースの香りに包まれた。それに、今何て言った?突然のことすぎて頭がついて行かない。



「ずっと、好きだった!」



ギュウッと強く抱きしめられる。少し苦しいけど、エースを想ってた頃の苦しさよりは全然心地良い。

わたしもエースの背中にゆっくり腕を回した。



「わたしも…、好き…です…」



ガバッ!!



体を引き剥がされ顔を覗かれる。わたしの顔、涙でぐちゃぐちゃだ。



「な、泣くなよ…!」



慌てだすエースに思わず笑いを零すと呆れたように涙を拭われた。



「泣くか笑うかどっちかにしろよ」
「嬉し泣きだよ」
「まぁいいや、へへっ」



わたしがつられてまた笑うと今度はエースが思い出したようにムッと表情を変えた。



「なんで合格したことおれには教えてくれなかったんだよ!」
「直接報告したくて家に行ったのにエースいなかったんだもん…」
「は!?家に来てたのかよ!聞いてねぇ…」
「ルフィ、伝えてなかったんだ…」
「あいつ…!!」



このままだとルフィが可哀想なことになりそうなので、まぁ会えたしいいじゃんとエースを宥める。と手を取られ、掌にあるものを乗せられた。



「これって…」
「部屋の鍵、おれ今月から一人暮らししてんだ。ふられても名前には渡すつもりだった。」
「……ありがとう!!」



鍵を握りしめまたエースに飛びついた。突然でもちゃんと受け止めてくれることに幸せを感じる。



満開の桜の木の下、わたしとエースは暫く抱きしめ合った。


わたしの気持ち、やっと言えました。
















春になったら/miwa

最終的に歌詞とは全然違うような…。まぁいいや!雰囲気雰囲気!


戻る




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -