〜7年後〜



「結婚しよう!!」


…え?


思わず動きが止まる。


社会人になって3年目。高校から付き合っていたエースと同棲を初めて2年目。
仕事にも慣れ、自宅に帰れば毎日あの笑顔で迎えてくれるエースがいて、ただただ幸せに満ちた毎日を過ごしていた。


そんなある日、仕事を終え帰宅し、玄関で靴を脱いでいたところ聞こえてきたのがさっきの言葉だ。

え?聞き間違い……だよね?


「うーん…、結婚してください?」


再び聞こえたエースの声に、脱ぎかけのパンプスから視線を上げて、リビングへ続く扉を見た。
部屋の電気がついていて、エースの影が動いた。

間違いなくそこにエースがいることがわかって、わたしは引かれるように扉へと向かう。途中脱げたパンプスがコロンと音をたてて落ちた。


ガチャ…


「おれと…、結婚してください!」


ドサッ…


肩から鞄が落ちて、ソファの前で片膝をついたエースと目があって、その顔はみるみる青ざめていった。わたしはそんなエースを見て、ただただ呆然と立ち尽くす。

お互いに見つめ合ったまま、固まる。テレビの音しか聞こえないその時間が、数秒だったのか数分間なのかわからない。
ぱくぱくと口を動かしたエースがついに声を出した。



「うあぁぁーー!!忘れてくれー!!」
「えっ、えぇぇ!」


突然エースが床に顔がめり込む勢いで項垂れ込む。慌てて駆け寄れば、貝になりたい…。なんて呟いてる。
ペローナにホロホロを喰らった時を思い出した。

しばらく慰めていると、涙目のエースが顔を上げた。


「名前、今日遅いって…」
「あ、ごめっ、思ったより早く終わっちゃって…」
「連絡しろよ…、駅まで迎えに行ったのに…」


気にしてくれるのそこなんだ。エースの優しさに頬が緩んだ。
まさかエースがわたし達の将来のことを考えてくれているなんてわたしは頭の片隅にも思っていなかったため、ただ驚いてしまう。きっとサプライズとか苦手だろうに、計画してくれてたんだね。ジン。と胸が温かくなった。


「ほんとは次の記念日にするはずだったけど、こうなったら仕方ねぇ…」


立ち上がったエースは引き出しから小さな赤い箱を持ってわたしの前でさっきと同じ姿勢になった。
困惑するわたしに対し、エースは頬を赤らめながらも力強くわたしを見た。


「名前、おれ達もう出会って10年だ」
「……そっ、そんなになるんだね…」


言われて初めて気がつく、出会ったのは中学の頃だったから、そっか、もう10年か。
長いようで、エースと過ごした日々は毎日楽しくて、あっという間だった。


「名前が傍にいてくれたら嫌なことあってもすぐ忘れられるし、帰ってきて名前がいると疲れなんか一気に吹き飛ぶ。朝起きて名前が隣にいると安心する。おれには名前が必要だ…。だから、これからもずっとおれの隣にいてほしい」


視界が霞む。目が熱い。
エースの言葉一つ一つに思いが籠っているのが伝わって、口が震えて、両手で口元を隠した。


「おれと、結婚してください」


エースの大きな手でパカと開かれた小さな箱の中にはきらりと光るダイヤモンドの指輪。はっ。と息を呑むと同時に堪えていた涙が流れた。


「わ…、わたしでいいの…?」
「バカ、前にも言ったろ。名前しか無理」


少し乱雑にわたしの手を取ったエースはその指輪を左手の薬指に嵌めた。
手を上げるとダイヤモンドがライトの光でさらに輝いた。


「こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」
「うわっ!」


エースに飛びつけば、なんなく受け止めてくれてそのまま抱き合った。
さっきエースの言ってくれたことはわたしも同じ気持ちだった。わたしもエースの存在に支えられている。
これから先もエースが一緒にいてくれる。なんて心強いんだろう。


その後、記念に写真を撮ろうということになったのだけど…。


「やっぱ着替えねぇ?」
「え、いいじゃん、わたし達らしくて」


撮った写真を見て頬を緩めていると、覗き込んできたエースは少し不服そう。
エースはTシャツとスウェットの部屋着、わたしは仕事終わりのスーツで髪はボサボサ。
エースは計画してくれていたんだし、きっちりしたかったのかもしれない。でも、この写真だって二人とも幸せそうなのが伝わってきてとってもいい写真だ。

あそこに飾ろうっと。
視線を上げてチェストの上に飾ってある写真立てを見る。
高2の文化祭のクラスの展示の中のひとつで、BBQの時に委員長に撮ってもらったのを飾ってある。それを見て時間の流れをしみじみ感じつつ、またエースとの思い出が増えたことに嬉しい気持ちでいっぱいになる。












「マルコ聞いたかよ!エースと名前結婚だってよ!!」
「やっとかい」
「お?お前やっぱ悲しいわけ?」
「んなわけあるか、とっくに吹っ切れてるよい」
「さすがにそうだよな、てかなんでこいつらこんなボロボロの写真なわけ?」
「さぁ?でも、あいつららしいねい」
「はは、確かにな!あ、結婚式は出席ですって送っとこ」
「気が早ぇよい」


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