昨日は親父さん達にお土産を渡しに行った後、マルコ先輩が家まで送ってくれた。

マルコ先輩がわたしの彼氏になったんだ…。

初めての恋人、その響きがなんだかくすぐったい。
今は、教室を目指す廊下の途中だけど、無意識に顔がおかしくなっているのか多くの視線を飛ばされている気がする…。


そんな自意識過剰状態になりつつも、なんとか教室へ到着すると、おはようと声を掛ける前に、女子軍団に腕を引っ張られ周りを取り囲まれた。


「名前ッ!あんたマルコ先輩と付き合ってんの!?」
「これもルッチ先輩の時と同じガセネタ!?」
「どっちなの!?」
「…え?」


胸ぐらを掴まれる勢いで質問攻めにされる、クラスメイト達の顔は不祥事を起こした人を問い詰める出版社の記者の顔。首からカメラをさげてそう……って!


「なんで知ってるの!!?」


昨日のことでまだ誰にも話していないのに!!
ノジコやロビンにも今日改めて報告をって思ってたのに…!

その時、どこからか誰かが持ってきた紙。その紙にデジャヴを感じ嫌な予感がした。


「これよ!」


バシッと目の前に突きつけられ、心の中でやっぱり!と叫んだ。


「だから、さっきも視線が凄かったんだ…」


“3A不死鳥マルコ!あの女嫌いについに彼女!?”


しかもばっちりキスしてる写真も…


「アブサロム…!!」


今度会ったら一発殴ってやる…!


「何一人で呟いてんの!」
「さっさと答えなさい!」
「え、あ、いや、その…」

「まーたこれか」


突然後ろから聞こえた声、頭に手を置かれたのと同時に手に持っていたチラシをサッと奪われた。振り返ると、エースが半分しか開いていない目でチラシを見ていた。


「エース」
「おはよ、あの獣ヤロー、またこんな嘘ばら撒きやがって…。おれががぶっ飛ばしてやる…!」
「やっぱり嘘なの!?」
「嘘なのね!?」


すかさず突っ込んでくる女子のみなさんにわたしはたじろぐ。


「い、いや、う、嘘…では…ない…」


自然と顔が下がってしまう。自分で言うのって凄く恥ずかしい。

全く反応が返ってこないのを不思議に思って顔を上げると、みんなのポカンとした顔が目に入った。それはエースも例外ではなく、おーい。と腕をぺちぺち叩いてみた。


「名前…、おまっ、マルコと付き合ってるのか…?」


エースのその質問にわたしはコクコクとうなずいた。


「ほんとに!?」
「おめでとー!名前!」
「まさか名前に彼氏が出来るなんてねー!」


わたしからちゃんとした返答を聞けて女子のみなさんは喜んでくれた。
だけど、エースだけは表情を険しくして、わたしから視線を外さなかった。


「いつから?」
「きっ、昨日」


な、なんか…、エースの覇気で押しつぶされそう……。


「お前…告ったのか…」
「ち、違う、マルコ先輩から…」
「………。お前マルコのこと好きだったの?」
「…そ、それは……」


返事に困ってしまった。黙り込むわたしを見たエースはなんだそれ。と表情を変えずに言い、それを最後にエースは黙って顔を伏せてしまった。
不思議に思い、名前を呼びながら顔を覗きこむと、すごく悲しそうなエースと目が合った。
だけどすぐに逸らされて目は合わなかった。


「そ、そうか!…よかったじゃねぇか」


そしてすぐに自分の席へと戻って行った。
そんな後ろ姿がどこか寂しそうでエースらしくなく思えたけど、またクラスメイトに囲まれエースのもとへ行くことは叶わなかった。








うそだろ…。

同じ言葉を頭の中で何度も繰り返しながら一番前の自分の席に座った。
そして、自分の頬を思いっきりつねってみるが当然のように痛みはやってきた。


「いっ!いてェ…」


夢じゃねぇのかよ…。いつのまにあの二人ができてんだよ!


「なぁ、お前知ってたのか?」


隣の席で本を読んでいるロビンに聞いてみると、彼女は本からおれへと視線をずらして答えた。


「えぇ、修学旅行の次の日に告白されたみたいよ」
「まじかよ…」


そういや、あの日から名前もマルコも様子がおかしかった。
知らなかったのはおれだけか……。


あぁ!!やっぱショックだ…!
なんつーか、そんなことおれには一言も言ってくんなかったし…、まぁ相手がマルコだってのもあるだろうけどさ。モヤモヤするし、おれ、今まで通りに話せる自信がねェ。

女子たちの方を見れば、名前は相変わらずあいつらに囲まれて質問攻めにあってるみてえだった。


「ちょっとー!詳しく話聞かせなさい!」
「今日みんなでマック行こうよ!」
「あ、今日は…」
「もしかして一緒に帰るとか!?」
「う、うん…」
「いいなぁ!羨ましい!!」


「はぁ…」


腕の上に頭を乗せ、机に伏せた。

なんでこんなにモヤモヤしてんだろ、一言言ってくれなかったくれぇどうでもいいのに。

おれと名前の関係は遠くなく、でも近くもなかった。その関係がおれは好きだった。なのに、マルコはおれよりも名前と近い存在になってて、おれの近くも遠くもないって関係ごと取ってったみてぇだ。もう、名前と今までみたいに遊んだりとか、できねぇのかな。

そんなことを考えていると、隣から、本を置いた音がした。


「いいの?」
「あ?」


腕の隙間からロビンを見ると呆れたような顔をしておれを見ていた。


「このままだと、本当に不死鳥に取られちゃうわよ?」
「そんなの……」


もう取られてんじゃねぇか……。
おれは一体どうすりゃ良いんだよ…。



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