マルコから連絡を受けて、島の裏の海岸へモビーを回し、エースのストライカーを回収した。そのまま島から離れ、少しした頃、空から不死鳥が二人を連れて戻ってきた。
「マルコ隊長だ!二人も乗ってる!」
そんな声にわらわらと人が甲板に集まり始める。ずっと張り詰めていた空気が緩んだ気がした。そんなおれも心配していた一人で、無事に帰ってきたことに安心して肩の力が抜けた。
だが、安心したのも束の間、甲板に降り立ち、人の姿に戻ったマルコが抱えていたのは意識なく、ぐったりとしているエースだった。
「すぐにエースを運んでくれよい!」
只事ではないと、数人が担架を持ってきてそこへエースを乗せた。ナースたちも駆けつけ、すぐに医務室へ向かう。
「海虫だ、すぐに輸液してくれ。あと左肩の処置と…」
マルコの指示を聞いたナース達が頷く。すぐに医務室へ運ばれていくエースに、心配そうに名前はついて行こうとしたが、マルコが腕を掴んで引き留めた。
「お前も怪我してるだろい、まず手当だ」
マルコに止められて名前は顔を歪める。そんな名前の姿を見れば決して無傷というわけではなく、顔も土汚れや傷、手足にも切り傷や打撲がいくつかできていた。普段戦闘に参加しない彼女がこんなにも傷を負って、痛々しい姿をしている。だけど、驚いたのはそれだけじゃない。
「わたしよりも、エースくんが…!」
「エースは大丈夫だ」
「でも…!」
「いいから、来い」
あんな必死な様子の名前は初めて見た。マルコに食い下がるなんて。そして、それがエースに対しての感情だというところにも驚きを隠せない。あの時のエースといい、この二人が想い合っているんだと、改めて思わされる。
結局、マルコが有無を言わさず、隣の部屋へ連れて行き、渋る名前を椅子に座らせたが、そわそわ落ち着かないように隣の部屋を気にしていた。エースが運ばれた隣からはドタバタと騒がしい声が聞こえている。
名前の前に座ったマルコが腕をとってその傷に不死鳥の炎をあてていく。大した傷ではなさそうだったが、非戦闘員の彼女がこんなに傷だらけなのは初めてのことだった。マルコは作業に集中しながら口を開いた。
「エースがやられたのは海虫だ」
「かい…ちゅう…?」
名前が視線をマルコに戻して不思議そうに首を傾げる。
さっきマルコが言っていた時にまさかとは思ったが、あのエースを見て納得した。どうりでボロボロなわけだ。でなきゃあのエースがただの海兵相手にあそこまでダメージを喰らうわけがない。
名前は初めて聞くようで不安を顔に表していた。
「海の虫だ。噛まれるとそこから体内に侵入して寄生する。厄介なのが海の成分を分泌する虫でな、時間が経つに連れて体の水分が海水におき変わっていくんだよい」
「エースくんの能力が使えなかったのって…」
「そう、能力者が海に浸かってるのと同じ状況になる」
思いあたる節があったのか、納得するように名前は頷いた。その虫自体はすでにマルコの炎で死滅させているらしいが、一度置き換わった海水を元の水分に戻さないといけないらしい。
「そのために点滴してる。だから大丈夫だよい」
安心させるようにマルコが微笑む。が、名前は頭を俯かせている。そうは言われてもあの様子を見れば心配だよな。
「マルコがそう言うなら安心だな」
小さな頭に手を乗せてグリグリと押し付けてやる。大丈夫だと。もう安心だと伝えるように。おれ達の言葉に名前はコクコクと頷いた。
海虫の生息はかなり限られていて、クソ暑い気候でなおかつジャングルのような自然の中だけ。そして、確か海虫に寄生されてから身体の水分が置き換わるのに、個人差はあるが1〜2週間だと聞いたことがある。
「ってことは前のナッツ島か…」
「あぁ、潜伏期間を考えても一致するよい。エースの腹に噛まれた痕があった」
「あいつ裸でジャングル冒険だって行ってたもんなぁ…」
エースらしい話に苦笑いが漏れた。まぁ原因がわかれば対処は簡単な虫だ。マルコの話では点滴で海水の成分が薄まってくれば意識も戻るだろうと。その言葉に名前も安心した表情を見せていた。
名前の傷の手当てが終わるころ、隣の部屋の喧騒も落ち着いたようだった。
「エースの様子見に行くか?」
「…はい」
マルコの言葉に名前は頷く。
隣の部屋へ案内すれば、名前は導かれるようにエースの元へ行く。ベッドに横になるエースの腕には点滴が2本繋がっていて、肩には包帯。まるで死んだように眠る表情はとても穏やかで、名前はおそるおそるというようにその顔に触れた。
「エースくん…」
小さく呟いた名前は、心配と安心が入り混じった表情でエースを見つめていた。その様子を見て、おれもマルコも表情が緩む。二人で目を合わせてそっと部屋から出た。
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