「おれだけの名前に…なってください」


これまで見た中で一番真剣な瞳から目が離せない。
言われた言葉を理解した途端に溢れ出した涙が、頬を伝ってエースくんの手を濡らした。

ふはってエースくんが笑った。また泣くのかって。ちゃんと見たいのに、勝手に涙が溢れて視界を歪ませる。エースくんは困ったように笑ってわたしの涙を拭ってくれた。


「…っ…、いつもっ…わたしのこと守ってくれてありがとうっ…」
「…ん」


やっと気付いたこの気持ちがエースくんと同じだったってことが信じられなくて、嬉しくて、早く言葉にして伝えたいのに、涙と嗚咽のせいでうまく言葉が紡げない。


「…っく…助けてくれて…ありがとうっ…」
「おう」


眉を下げて優しくこちらを見つめるエースくんの表情はどこか諦めが混じっているように感じた。今、エースくんが何を考えているのかはわからない。それでも、愛おしそうにわたしの頬に触れている手は、あったかくて大きくて、この手が何よりも安心する。

わたしはふっと息を吐いて、エースくんの手を掴めばぴくりと小さく反応した。ぐっと喉に力を入れ、彷徨わせていた視線を定めると、鋭さのなかに弱さを含んだエースくんの瞳がそこにはあった。


「わたしもっ…、エースくんが…すき…!」
「……っ」


今度はエースくんが驚く番。目を開いて固まった。でもそれは一瞬で、すぐに柔らかい笑顔に変わると、ぐいっと引き寄せられて大きな腕の中に閉じ込められた。
肩にエースくんの額が乗った。


「ほんとか?」
「…うん」
「夢じゃねぇ?」
「…うん」


信じられないと、少し伺うようなエースくんの言葉に笑みが溢れた。髪が頬に当たって、くすぐったくて、だけど、それよりも心臓は爆発しそうなくらいドキドキしている。


「肩…」
「肩…?…痛む?」


エースくんの言葉に戸惑う、銃で打たれた傷が痛むのかと見ようとするけど、すぐに遮られた。


「痛くていい…、夢じゃねぇってことだろ」


そんなことを言うものだから驚いて言葉何も言えなかった。でも、意味を理解すると、なんて子どもみたいなんだとふっと笑みが溢れてしまった。そんなわたしに気づいたのか、エースくんが顔を上げて、笑うなよ。と少し頬を赤らめて頬を指で掻いて、視線を逸らすものだから、余計に頬が緩んだ。


「名前…」


名前を呼ばれれば、さっきと同じ真剣な瞳に捉えられてもう離せない。気づいた頃には手が頬と後頭部に回っていて、ゆっくり近づく距離に無意識に目を閉じれば、そっと、今までで一番優しいキスが降りてきた。


「好きだ」


小さなリップ音とともに唇が離れて見つめ合うと、じわじわと温かい感情が広がって来る。くすぐったくて、ドキドキする。


「わたしも…」


この気持ちに気付くまでにたくさんの時間がかかってしまった。
前は近くにいることが怖いと思っていたのに、今は離れることが怖いと思ってしまっているのだから、自分の心境の変化にも驚かされるが、わたしはこの人がいないとダメなのだとはっきりとわかる。

エースくんと抱き合うと彼からの気持ちが伝わって満たされていくのがわかって、この幸せを知ってしまったわたしはきっとこれまでよりも貪欲になってしまっただろう。

エースくんの綺麗な瞳に見つめられると、吸い込まれるようにその唇に口付けた。


「好き…」


その時のわたし達にとって、この時間は二人だけの世界のようだった。













ふっと口元が緩む。


「はは、よかったな」


扉の隙間から二人の様子を見ていたサッチは嬉しそうにそう言い、デュースはやれやれと言ったように肩を竦めた。それでも、その仮面の下の表情が緩んでいるのがわかった。

名前の声でエースが目を覚ましたのだとわかったが、とてもじゃないが入れる雰囲気じゃなくおっさん三人でことの行く末を見守っていたわけだが。なんとかハッピーエンドに持ち込めたようで安心した。


「もうしばらく二人にしてやるか」
「そうだねい」

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