海兵達の先頭に立つのは間違いなくユマで、デュースの言っていたことが正しかったと証明された。

ユマと対峙し、互いに睨み続けるが、正直、この状況はかなりやばい。能力が使えないだけならまだいい。問題はずっと続く脱力感だ。まるでずっと海の中に入ってるみてぇに力が入らない。この状態でこれだけの海兵を相手にしなきゃならねぇのはかなりきつい、せめて名前だけでも…。

名前がおれの腕をぎゅっと掴んだ。名前を見れば、おれと同じように強い視線をユマへ送っていた。ユマは少し悔しそうに表情を歪めると口を開いた。


「海軍として、あなた達を捕らえさせてもらう」


ユマの合図で海兵達が一斉に襲いかかってくる。名前に触れさせまいとなんとか捌いていくが、すぐに息が上がって、身体が思うように動かなくなってきた。


「くそ…っ……はぁっ……」


倒しても倒しても次々に沸いてくる海兵に、体力の限界も近い。その隙をつかれ、数人の海兵がおれをすり抜け名前に近づいた。一人の海兵が名前を捕らえて首に腕を回す。名前が顔を歪めたのが見えた。


「エースくっ…!!」


苦しそうにそう言って名前が手を伸ばす。それに応えようとするも、その手を掴むことはできず、海兵の持つ刀が名前の首に当てられる。

その瞬間頭に血が上った。


「やめろォォッ!!」


ゴォォォォォッ…!!


どさっ………、どさっ……

名前を捕らえてた海兵が地面に倒れた。おれを掴んでいた海兵も、周りにいた奴らもみんな、気を失っていった。名前が戸惑いながらおれを見ていた。


「エースくん今の……」
「名前…、大丈夫か…」


立ち尽くす名前に近づく。頬に触れて、怪我がないことを確認して、息を吐いた。


「なに…、今の……」


残ったのはユマだけ、頭を押さえ、多少ふらつきながらも驚いたようにこちらを見ていた。それを確認して、おれの膝が先に折れた。慌てて名前が支えようとしてくれるが、支え切れるはずもなく、地面に膝がつく。


「はぁ……、はぁっ……」


そろそろ、本気でやべぇな…。ユマがまだ、残ってるのに…

スペードの頃の手合わせで、ユマはそれなりの戦闘力を持っていることは知ってる。あの時は手加減していたが、今のおれが倒せるかどうかは怪しい。なんとか名前だけでも逃がせないか…。飛びそうな意識の中、必死で考えるが、この状況を打開できる策などおれには考えられなかった。
そんな時、名前がすっと立ち上がる。


「エースくん、……これ借りるね」
「っおい…」


名前はおれの腰から銃を取ると、背を向け、それをユマに構えた。目を見張るおれとは対称に、ユマは少し馬鹿にしたように鼻で笑った。



「…何?銃なんて構えちゃって、あんた闘えないでしょ」
「今は…、エースくんを守りたいの…」
「あっそ、撃てば?あんたに人を撃てるばずない」
「……」


構える名前の手はガクガクと震えてる。ユマの言う通りだ。名前は人を撃ったことがない。マルコと訓練してたのも知ってる、筋がいいのもわかってる、それでも優しい名前にユマは撃てないことは明白だった。


「名前やめろっ…」
「エースくんは…わたしが守るっ…」
「……!?」

銃を構えたまま、おれの前から退こうとせず、鋭い視線を外さない名前にユマは悔しそうに顔を歪めた。


「何それ…、ムカつくんだよ…!!」


ユマが名前に向かって走って来る。パァンッ!と名前が発砲して、ユマの足元に弾丸が当たる。それに躓いてユマの身体が前屈みになるが、片足を踏ん張って体勢を立て直した。そのまま名前の脚を蹴り上げようとするけれど名前はそれを避けた。今度は名前の腹部に向けて拳を向けたのを掌で払って、ユマの後ろに回り込む。そしてそのまま頚に手刀を叩きつけた。

「うそっ…」

どさっ…


「はぁっ…はぁっ……」


気を失ったユマが倒れ込む。
名前は息を乱しながらその場で立ち尽くしている。おれからはその後ろ姿しか見えない。


「はぁぁぁっ…」


両手を握りしめて大きく息を吐くと、おれの元へ走ってきた。おれは今見た光景が信じられなかった。名前が体を張って、おれを助けてくれるなんて。

名前に体を起こされて名前の腕に包まれた。心配そうにおれを覗き込む名前の顔に手を伸ばす。


弱いくせに…、守られてればいいのに…。いつも一生懸命で…、自分のできることを増やそうとして…。

あぁ……、やっぱこいつが好きだな……。



「ごめんな…」
「エースくん…!しっかりして…!」
「名前…、すげぇな…」
「エースくん!」


伸ばした手が名前の頬に触れることはなく、おれの意識は落ちていった。

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