あれからどれくらい経ったろう…。時間がわからないって。こんなに辛いんだ。
どれだけ見ても、天井の模様は変わらないし、なんの音も聞こえない。

あれ以来ユマちゃんがわたしの様子を見にくることもなかった。

何もない空間で、わたしはこれまでの旅を思い出していた。


なんといっても始まりはルフィとの出会いだろう。
ルフィと出会って友達にならなかったら、わたしの人生は大きく違っていただろうな。いつも底抜けに明るいルフィのおかげで、わたしは友達という存在の大切さを知った気がする。最後に会ったのはとても短い時間だった…、元気にしてるかな…。ルフィが落ち込む姿なんて想像できないけど、大好きだったエースくんがいなくて寂しがっているかもな。と笑みが溢れた。

赤髪のシャンクスさんは初めて出会った海賊で、気さくで、いつもルフィをからかって遊ぶ子どものような人。たびたびニュースになるような海賊とは全く違う印象に驚いたものだった。

それから、サボくんとエースくんと出会った…

サボくんはいつも優しくて、わたしの手を引っ張って助けてくれたり、わたしのできることを増やそうと一緒に練習に付き合ってくれた。失敗しても根気強く教えてくれて、サボくんのおかげで勉強も好きになった。

ダダンさんは3人に振り回されながらもとても優しいお母さんで、悪態をつきながらもいつもわたし達の心配をしてくれていた。元気かな。

旅に出てから出会ったデュースさんはマスクで顔を隠しているけれど、表情がとてもわかりやすい人で、自由なエースくんに振り回されながらもいつも助けてくれていた。わたしの良き理解者で、小さなことにも気がついてくれて。何度助けてもらったことか。

マルコさんとサッチさんは白ひげ海賊団に来てから、とても気にかけてくれて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、こんなわたしにたくさんの愛情をくれた。この二人がいなかったら、今のわたしはないだろうとさえ思う。


そして…、エースくん

初めて会った日のことは良く覚えてる。


「こいつ友達の名前!こっちがおれの兄ちゃんのエースとサボだ!」


元気よくルフィは紹介してくれたけれど、エースくんは一度目が合っただけですぐに逸らされた。切長で鋭い目、それだけでわたしは萎縮してしまったのに、サボくんと握手をしていたらさらに睨まれてひゅっと身体が強張った。

この頃わたしはエースくんが怖くて仕方なかった。
そんな彼に自分から近づくこともできず、いつもサボくんの陰に隠れていた。それすらエースくんを苛立たせる要因だったように思う。

サボくんがいなくなった時、わたしは自分がどうすればいいのかわからなかった。泣きじゃくるルフィと、苛立つエースくんを見て、自分はもう、ここにいれないと感覚的に思ったのだ。

まさか、あの日エースくんが誘いにくるとは思わなかったな…。

航海術の勉強を続けていたのは自分自身興味を持つようになっていたのもあるけれど、それだけじゃなかった。心のどこかであの兄弟との日々を忘れられなかったのだと思う。海賊になるつもりはなかったはずだった。だけど、エースくんに連れられて島を出て、幼い頃思い描いていた日々はこれだったと懐かしさすら感じた。

まさか、世界一と言われる海賊団の一員になるとは思っていなかったけれど。
それもこれも、わたしの人生は、全てエースくんによって象られたものだった。

いつもわたしの前を歩いてくれた。わたしの憧れで、道標だった。

幼い頃、怖いとしか思っていなかったエースくんは、仲間思いで、楽しそうに笑って、冒険が好きで、戦闘の時は昂って、でも時々悩んで、実はとても弱い人だった。これまで見てきたさまざまなエースくんが頭の中に流れてくる。

いつだって、まっすぐな人だった。

そんな姿を見ることも、触れることも、もう、叶わなくなる。

天井が歪む。目の前がぐにゃぐにゃになって、泣いていることに気づいた。あふれた涙がぽたりと膝の上に落ちて流れていく。

なんで、もっと早く……。

頭に浮かぶのはエースくんのことばかり。

考えなくても答えは出ている。

ずっと、気づかないフリをしていた。

もう二度と会うことができない。

この状況になって、今更想いが溢れ出てきた。


……わたしはずっと、エースくんに恋をしていたのだ。


気づいたところでもう彼はいない。
自分の気持ちに目を逸らし続けた結果がこれだ。


「バカだ……」


膝を抱えて額をつける。目の前が真っ暗になろうと浮かんでくるのはエースくんと旅をした思い出ばかりだった。





………


「_____!!!」

「_____ッ!!」

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