「マルコさん今お暇ですか?」
「ん?あぁ、どうした?」



午後から島での用を済ませ、親父の様子を診たあと、名前に声をかけられた。
名前から何か言ってくるなんて珍しいと思いつつ、その後を着いていく。



着いたのは食堂で、こちら座っててください。と名前に言われるまま、カウンターに座る。
不思議に思いつつ、言われた通りにすると、名前はそそくさと厨房の方へ行ってしまった。

一体なんだ?

厨房からサッチがにやにやとこちらを見てくる。
それも意味がわからない。

名前とサッチが軽く言葉を交わして、サッチは名前に笑いかける。



「お待たせしました…!」
「これは…」
「お口に合うといいんですけど…」



名前が両手で持ってきた皿を目の前に置かれる。
そこには皿いっぱいのパイナップル
綺麗に盛り付けされており、横にはゼリーとクリームなんかも添えられている。

キラキラと効果音まで聞こえてきそうな、まるで宝石を見ているよう。
まさかこれを、おれのために…?
あまりに驚いておれが動かないでいると、サッチからからかうように言った。


「嬉しすぎて固まってら」


ケラケラとサッチが笑い、それでもおれが動かないからか、名前が不安そうに声を出した。


「あの、マルコさん…?」
「いや、すっげぇ綺麗で見惚れてたんだよい」
「よかった…」


安心したような声を出す名前を見れば、照れ臭そうに笑っている。


「マルコさん、パイナップルが好きだってサッチさんに、聞いて…」
「これ、全部名前が作ったのかい?」
「はい…、サッチさんに手伝ってもらいながらですけど」


心臓がギュッと掴まれた気分になる。

この船に来てから、なかなか馴染まず、おれ達に遠慮して、
自分の居場所を作ろうとしなかった名前が。

おれのためにこれを用意してくれた。
名前にとって、ここは安心できる場所になった。と思っていいのだろうか。

この船で居心地が悪くないか、おれが世話を焼くことを迷惑だと思っていないか少し心配なところもあった。だが、こんな嬉しいサプライズをしてくれたことに目が熱くなった。


「マルコさんにはいつもお世話になってるので、何かできたらと思って…」


ポンと名前の頭に手を乗せ、その小さな頭を撫でる。


「ありがとうよい」
「……はいっ」


おれのこの気持ちが名前には伝わっているのかはわからないが、名前は照れ臭そうに少し顔を赤くして微笑んだ。
サッチもこの様子を微笑ましく、見ている。
こいつも協力してくれたんだな。

用意してくれたフォークを手に取る。


「食べるのがもったいないねい…」


カメラでも持っていれば何枚でも写真におさめたい気分だ。


「ふふ、この島のパイナップルとっても美味しかったですよ」
「マルコはパイナップル皮ごと食うくらい大好物だもんな!」
「皮ごと!?」


驚いている名前を横目にフォークで刺したパイナップルを一口口に入れる。
サッチの言う通りパイナップルは好物だ。
これまでにこの島のも食べたことはある。


「うん、今まで食ったなかで一番うまいよい」


おれの言葉に名前は嬉しそうに笑ってくれた。


「よかった…」


安心したように頬を緩めた名前は、ほっと息を吐く。
もし、これが苦手な食べ物だったとしても、おれはうまいと言っただろう。
名前がおれのために何かしたいと思ってくれた気持ちだけでこんなにも温かい気持ちになるなんてな。


「また、頼むよい」
「もちろんです!」

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