心地の良い光に包まれるような感覚に意識が浮上した。
目を開くと、一瞬ここがどこなのかわからなくなった。

すぐに自室のベッドだと理解できたが、どうにも昨日部屋に戻ってきた記憶がない。


あれ…。わたし何してたっけ…。


きちんと布団までかけられている。
最後の記憶は操舵室でみなさんと話したところまで。
寝ちゃって、誰かが運んでくれたのかな…。

この状況でその人物にまで検討がつく。
きっとマルコさんだろうな。

正直、こんなにもマルコさんが世話を焼いてくれることが不思議で仕方がない。
この大きな海賊団の船長である親父さんの右腕で、大勢の人たちをまとめていて、きっと大変で忙しいはずなのに。
こんな、わたしなんかを気にかけてくれる。

なんだかお父さんみたい。
故郷の父とは見た目も性格も全く違うのに、そう感じてしまうのは、マルコさんからたくさんの愛情を受けたからだろう。

だからか、申し訳ないと思う反面、嬉しい。
後でお礼しないと。


今何時だと時計を見れば朝の8時を指していた。


と…


コンコンッ。と軽い音がした。続けて、起きてるかよい?と声がかけられる。
ついさっきまで考えていたマルコさんの思わぬ訪問に慌てて扉に駆け寄る。

扉を開いた先にはいつものように微笑むマルコさんがいた。


「おはよう」
「おはようございますっ!すみません、昨日運んでくれたのマルコさんですよね?」
「あぁ…、あんなとこで寝ちまってたからな、気にするなよい」


ぽんと優しく手が頭に乗せられて軽く撫でられる。
ありがとうございました。と口にすればマルコさんは、よいよい。と手を離した。

それにしても、どうしたんだろう。マルコさんがわたしの部屋を訪ねてくるなんて珍しい。
そんなわたしの感情を読みとったかのようにマルコさんはフッと笑った。


「さっき島に着いたんだよい。ナッツ・トーマ島」
「そうだったんですか!」


言われてみれば船の揺れが落ち着いているようにも感じる。
マルコさんから、このナッツ・トーマ島について教えてもらった。

前々からも言われていた通り夏島で、親父さんのナワバリだそうだ。
島自体とても大きくて、島の中心はとても栄えている街があるのだと。



「もう出てってる奴らもいるからよい、お前も…」
「……?」


突然言葉を止めたマルコさんを不思議に見つめる。
マルコさんはわたしを見つめると、いや。と言葉を区切った。



「この島の季節は1週間で変わるんだ。まぁ、元が夏島だから安定はしてるんだが。今は夏で一番暑い時期なんだよい」



夏島の夏、わたしは経験したことがない島の気候だ。
この長袖生活にさらに追い討ちをかけられることになってしまうなぁ。



「夏島の夏は本当に暑い、日差しがきつくて火傷するやつもいるくらいだ」
「そ、そうなんですか…」


か、考えただけでも恐ろしい…。


「後3日もすれば秋になって涼しくなる。来週には冬だから、気候が落ち着いてから島に降りるといいよい」
「はい、そうします」


わたしの返事を聞いて頷いたマルコさんは、そういえばとポケットに手を突っ込んで中から何かを引っ張り出してわたしに差し出した。
その袋を不思議に思って受け取るとずっしり重い。

中を見れば、たくさんのお金が入っていた。
思わずマルコさんに突き返す。



「い、いただけません…!」
「働いてもらってる給料だよい、今まで一度も渡してなかったろい」
「でも、こんなに…」
「足りないくらいだ。船を救ってもらった恩もある。受け取ってくれよい」


優しく押し返されて、わたしの手元に戻ってくる。
本当に、ありがとうございます。と深くお辞儀をするがそれも軽く肩に手を乗せられ、「これからも頼むよい」と顔を上げさせられた。

この優しさに何度救われたか…。マルコさんのためにももっと航海士として頑張らないと。


「だがまぁ、一旦休憩だな。予定がなかったらサッチ手伝ってやってくれよい」
「サッチさん…?」
「あぁ、食料調達は各隊にいろいろ振ってるんだがなぁ…」


どうやらサッチさんは厨房で使う常備品なんかのチェックをして買い出しに行くんだそう。
そのチェックがあまりに膨大な量で4番隊のみなさんと協力していはいるけれど時間がかかってしまうんだとか。
もちろん二つ返事で承諾し、マルコさんは別のすることがあるからと去っていった。



とりあえず着替えなければと鏡を前にして、気が付く。

昨日はエースくん来なかったんだ…。
わたしが寝ていて帰ったのかな…。

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