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 工藤邸に戻ると、既にコナンくんと沖矢さんは帰宅していた。
 黒川さんのことは知り合いのボディーガードだと哀ちゃんに紹介して、家に上げさせてもらう。

「解決して良かったわね。まだ後処理はあるけれど、ひとまず心配ないんでしょう?」

 紅茶を淹れながら、哀ちゃんはほっとしていることを隠さずに言う。
 裏表なく心配してくれた彼女には、本当に感謝していた。

「えぇ、引越しの段取りもできたの。いくらか工事はあるみたいだから、しばらくホテル暮らしになるわね」
「え?」
「?」

 驚く哀ちゃんに、首を傾げた。
 紅茶をわたしの前に置きながら、哀ちゃんは拗ねた顔をする。

「……もう少しいてくれても良かったのに」

 可愛すぎる。なんというかもう、どうしてここまで懐かれたのかわからないけれどうれしい。
 こほんと咳払いをして緩む頬をごまかし、哀ちゃんの赤毛を撫でた。

「もう十日もお世話になってしまったし、沖矢さんにもこれ以上迷惑はかけられないわ。身辺警護は黒川さんにお願いするし、本当にもう大丈夫なの」
「僕は構いませんが」

 コーヒーを啜る沖矢さんが哀ちゃんに助け舟を出す。
 そりゃあそうでしょうね。わたしがここにいるだけで哀ちゃんは工藤邸にいてくれるのだ。警護しやすいに違いない。
 そして、わたしの心に余裕ができたということは、聞きたいことを存分に聞ける状況になったということで。
 つまりは、出ていってもらいたい理由がない。むしろ、滞在される方がありがたい。

「わたしが気にするのよ。ウイスキーダースで送りつけるわよ」
「お礼の押し売りだよねそれ。すっかり元の千歳さんだね」

 コナンくんは苦笑いを浮かべている。"弱っていたときの方が可愛げがあった"と顔に書かれてもいる。

「哀ちゃんのおいしいご飯のおかげよ。ありがとう」
「……どういたしまして」

 素直になれないのか視線を逸らして返事をされた。
 お礼を言われて照れる姿はとても可愛らしい。今度お茶にも誘ってみよう。

「そ、れ、で」

 コナンくんに向き直ると、ひくりと頬を引き攣らせられた。
 こちらはにっこりと笑いかけているだけだというのに、失礼な態度である。

「助けてくれたことには本当に感謝してるのよ。ありがとう」
「ど、どういたしまして」
「でもね、これだけは教えて欲しいわ。どうして共犯者のことを教えてくれなかったの? メールが来てコナンくんが舌打ちしたとき、本当に怖かったのよ。それに、毛利先生にまで力を貸していただいていたなんて……」
「それについてはごめんなさい。事前に話すと千歳さんの怯えた態度が強くなって、相談したんだって疑われると思って……。おじさんにはちゃんと事情を話して手伝ってもらったから大丈夫だよ! 落ち着いたら元気にしてる顔を見せてくれたらいいって言ってたし」

 毛利先生は優しすぎるのではないだろうか。直接お金を渡すのも気が引けるし、ビール券か何かを包んで持っていこう。
 共犯者について教えてくれなかったことの理由にも納得がいって、溜め息をついた。
 ふと、沖矢さんが煙草片手に部屋を出ていくのが目についた。こちらをちらと見遣って去っていくところを見ると、何か話したいことがあるのか。
 黒川さんに二人の相手をお願いして、席を立った。

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