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 起きると部屋は真っ暗で、カーテン越しに薄ら射し込んでいた陽の光もなくなっていた。
 まだ瞼は重たいけれど、眠れた気がする。
 ベッドから下りて部屋の電気をつけた。
 そばのテーブルの上に置いていたバッグからスマホを出して、メールチェックをして。特に新しい依頼もないので、仕事用のスマホはバッグに戻し、プライベート用のスマホだけ出しておく。
 壁に取りつけられた鏡で化粧が崩れていないか確認して、部屋を出た。
 リビングに向かうと、おいしそうな匂いが漂ってくる。久し振りに空腹を感じた。

「あ、千歳さん。よく眠れた?」

 コナンくんがすぐに気がついて、声をかけてくれた。

「えぇ、おかげさまで。もっと寝ていたい気もするけど」
「いいよ、好きなだけ寝てなよ。でもご飯は食べて」
「実はちょっとだけお腹が空いてるの。おいしそうな匂いね」
「良かった」

 さぁさぁとダイニングテーブルに促された。
 沖矢さんは相変わらずローテーブルでパソコンを操作している。

「その人には後で食べさせるわ。博士も家で研究に没頭してるし。私たちは先に食べましょ」

 しゃもじ片手につれなく言う哀ちゃんに頷いて、準備を少しだけ手伝った。
 どうやら沖矢さんは哀ちゃんが火を使うとあって、自室に籠もらずここで作業をしているらしい。案外ちゃんと保護者をしているのだなと思いつつ、土鍋からお椀におじやをよそった。

「いただきます」
「どうぞ」

 コナン君と哀ちゃんは普通の食事だ。ご飯にお味噌汁、さばの味噌煮にほうれんそうのおひたしと、和で統一されている。
 味噌と出汁のいい匂いを感じながら、れんげで掬ったおじやを少し冷まして口に運んだ。ふんわりと広がる出汁の風味。柔らかく煮えたお米は、しばらくまともに食べていなかった体にも優しかった。

「おいしい……!」

 哀ちゃんは大人っぽく笑んだ。

「良かった。自分で気がついていないかもしれないけど、あなたずいぶん痩せたわよ。やつれた、って言った方がしっくりくるくらい」
「……心配かけちゃったわね」
「ここでしっかり食べてくれればいいわよ。アイスを食べる元気はある? ちょっとお高いのを買ってきてもらったの」
「少しだけなら」
「じゃあ私と半分にしましょ」

 あれこれ世話を焼いてくれるのを素直に受け取って、デザートにと出されたアイスを食べた。
 それにしても、沖矢さんを完全に財布扱い。多分彼は哀ちゃんのお願いだから好きにさせているのだろうけれど、申し訳ない。中身を知っているだけに、この期に及んでと思われていても仕方がないと考えてしまう。
 片づけだけでも手伝おうとしたら、ふらついて食器を落とされても困ると台拭きだけでお役御免になってしまった。
 すごすごとソファに近づいて、沖矢さんの向かいに座る。
 コナンくんがコーヒー片手にやってきて、隣に腰を下ろした。

「千歳さん、そういえば仕事は大丈夫?」
「クライアントには体調を崩してるって伝えてあるわ。だからしばらくは大丈夫」
「そっか。昴さん、どう?」
「犯人はわかりましたよ。千歳さんの住んでいるマンションの406号室に住んでいる工業大学生です」

 コナンくんの進捗確認に対して、するりと出てきた答え。
 それは、向かいの部屋の住人を指す言葉だった。

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