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 白河さんと一緒に宵闇に紛れられる色合いの動きやすい服と靴を購入して、夕食は家で白河さんに作ってもらった。別にわたしが作ってもいいらしいのだけれど、気を遣われるのがあまり好きじゃないのだそうだ。そういうことならと、任せきりだ。
 翌日、早朝から白河さんが警護に来て、昼間は翻訳の仕事をして。日が暮れる頃になってから軽く食事をして、着替えて待ち合わせ場所に来た。取引現場になると推定されている港のそばの公園だ。
 赤井さんはまだ来ておらず、風見たちが用意した黒のレガシィのそばで待っている状態。レガシィといえば走り屋も乗るらしい車。いざとなったら猛スピードで逃げることになるかもしれない。
 ここ何ヶ月も外を歩く時はヒールの高い靴だったから、地面にぺったりと足がつく感覚は久しぶりで慣れない。
 暇だったので地面を踏んで感触を確かめていると、風見に笑われた。

「ふっ」

 口元に手をやって隠してはいるけれど、完全にポーズ。笑っていることを隠す気なんてない。

「笑わないでよ!」
「悪い、面白くて」
「悪びれてないわねそれは」

 一日ヒールを履いてみればいいのよ、とそっぽを向いたら、今度は白河さんが吹き出した。どうやら風見がヒールを履く姿を想像したらしい。

「そうそう、藤波君も暗号は赤井捜査官の読み通りで合ってるだろうって言ってたよ。答えを教えずに解いてもらったからまず間違いないはず」
「なら、当たりでしょうね」
「ん、電話」

 白河さんは人差し指を唇に当て、"静かに"と合図をしてポケットから出したスマホを耳に当てた。
 耳を傾けると、電話の向こうの藤波さんの声も聞こえてくる。

『藤波です。白河さん、今いいですか?』
「どうした?」
『すみません……降谷さんに穂純さんからもらったデータ見られました』

 ひく、と白河さんの口元が引きつった。風見も、ごくりと唾を飲む。
 彼ならあの暗号もあっさり解いてしまうに違いない。追っている取引について隠されたことを、どう思うか。
 FBIが絡んでいるからと伝えていないけれど、それを知らなかったらどうなるか。
 怒るだろうことは、想像に難くない。

「……まじ?」
『マジです。後ろに誰か立ったと思ったら一瞬でCtrl+Pからのエンターキーされました。プリントアウトした紙持って、"事情はあとで聞く"っていう死刑宣告をして颯爽と出ていかれました。説明する暇もなく』

 白河さんは首の後ろを掻いて、深い溜め息をつく。

「あぁぁ……ちょっと勘弁してよ……。――藤波君、あんたと彼女のこと知ってる上司から彼にワン切り入れて。こっちも風見君と私とで入れておくから。面子でさすがに誰のこと伝えたいかはわかるはず」

 考えをまとめるとすぱすぱと指示を出してしまえるところに、ひどく安心感を覚える。
 風見もスマホを取り出し、何やら操作し始めた。

『了解です。作戦は予定通りですね?』
「うん、変更はなし。……赤井捜査官が来る、切るよ」

 そうして通話を終えると、白河さんも降谷さんに電話をかけて、ワンコールで切ったらしい。
 スマホをしまって、ふぅと一息ついたところで、横にシボレーが滑り込んできた。ギリギリセーフだと内心冷や汗をかきながら、降りてきた赤井さんを出迎えた。

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