05

「えっ!?」

 紙袋から取り出した包みを見て、コナンくんが驚いた声を上げた。
 思わずそちらを見る。

「どうしたんだい? コナン君」

 安室さんも不思議そうにコナンくんを見た。

「い、いや、てっきり手作りなんだと思ってたから……」
「大抵のイケメンはね、手作りにいい思い出がないのよ。だから安心安全な市販品」
「そ、そっか……」

 コナンくんの様子がおかしい。
 賭けではコナンくんだけが市販品を渡すと言っていたのではなかっただろうか。だったら、喜んで……というか、予測が当たったと不敵に笑っていてもいいはずなのに。
 まさか、まさか。賭けは赤井さんの嘘? よくよく考えたら、哀ちゃんも"手作りで押すのよ"なんて強気なアドバイスもくれなかった。自分がそういうアドバイスをしても違和感がないことをきちんと自覚している子だし、賭けに勝ちたいならそうすれば良かったのに。

「ありがとうございます」

 考えている間に、透さんはにこにこと笑って、包みを受け取った。
 あれ、これはこれで、なんだか苦しい。
 彼に落胆してほしかった? 手作りじゃないのか、ちょっと残念だなって、そんな顔をしてほしかった?

「梓さんにも、良かったら」
「いいんですか?」

 知り合いに会った時用に持っていた小さな包みを渡した。
 "私も友チョコあるんですよ"なんて屈託なく笑った梓さんは、奥に一度引っ込んで、小さな包みを持ってきた。

「千歳さん、ハッピーバレンタインです!」
「ありがとうございます」
「コナンくん、これ、蘭ちゃんたちにも渡してくれる? 毛利先生はウイスキーボンボンがいいかな」

 チョコレートが入ったピンクの小さな包みを三つと、ウイスキーボンボンが入った赤のラッピングの小箱をコナンくんに渡した。
 コナンくんは快く引き受けてくれた。

「千歳、わざわざ閉店まで待ってくれたんですよね。送りますから、もう少し待っててもらえますか?」
「……じゃあお言葉に甘えようかしら」

 透さんはそう言って、閉店作業の手を速めた。
 最後の片づけをする間に、コナンくんを二階の探偵事務所の前まで送った。
 コナンくんは心配そうに、千歳さん、と名前を呼んできた。

「手作り、渡さないの?」
「……なんか、自信……なくなっちゃって」

 渡せなかったものが入った紙袋の持ち手を、ぎゅっと握る。

「警戒なんてしないと思うけど……」
「うん、それでも」
「千歳、帰りますよ」

 階段の入り口から顔を覗かせた透さんに声をかけられて、まだ何か話したそうだったコナンくんに"おやすみ"と言って踵を返した。
 既にポアロの前に横付けされていたRX-7の助手席に乗り込むと、零さんは無言で車を発進させる。

「……千歳の家に寄っていっても?」
「え? いいけど」

 それきり、零さんは黙ってしまった。沈黙が重い。
 待って待って。なに。普通に喜んでたよね?
 不安に思いながら、紙袋を抱えて車に揺られた。
 マンションに着いて地下駐車場の来客用のスペースに停めると、零さんは後部座席から小さな白い紙袋を取って車を降りた。
 不思議に思いながら、地下駐車場から直接エントランスに行ける扉の横の機械に触れて、指紋認証をした。宇都宮さんは生体認証の試験運用だとか言っていたけれど、これはこのままなのだろうか。面倒はないので、いいのだけれど。
 部屋に着いて、零さんを招き入れると一通りカメラや盗聴器の確認をされる。定期的に彼を呼ぶと、しっかりチェックしてもらえるのでありがたい。
 暖房をつけてお風呂も入れてから、子どもたちや梓さんからもらったチョコレートを冷蔵庫に仕舞っていると、零さんが電子レンジを使いたいと言い出した。
 食器もご自由にどうぞと返して、渡しそびれた最後のひとつを仕舞う。
 コートやアクセサリーを寝室に持って行って片付けてから戻ると、零さんはすっかりやりたいことを終わらせたようだった。

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