02

 宇都宮さんの会社を出て街中に戻ってくると正午を回っていて、空腹感を覚えた。
 風見との待ち合わせ場所はファミレスで、作家と編集者という体で、原稿(に偽装した茶封筒に入った情報の資料)を渡す感じで待ち合わせをしている。今回は米花町での受け渡しだけれど、風見が担当だ。
 ご飯食べておこうかな。
 待ち合わせのファミレスに向かって、そこで昼食をとった。
 食後の紅茶を飲んでいると、風見がやってきた。公務員らしからぬカラースーツに、お洒落なワイシャツとネクタイ。眼鏡も少し柄が入っている。
 スーツに眼鏡という基本装備はそのままなのに、こうも変わるものかと毎度感心してしまう。
 風見はわたしを見つけて、早足で近づいてきた。

「早いですね」
「お昼食べちゃおうと思って」

 二人がけの席の向かいに座った風見はお冷を持ってきた店員にコーヒーをひとつ頼んで、ひとつ息を吐いた。

「原稿はできあがりましたか?」
「締切ギリギリで、申し訳ないことをしたわね」
「いえ、突然の依頼を快く受けてくださって、こちらが謝りたいぐらいですよ」

 締切ギリギリ、すなわち急ぎの案件。
 風見はにこやかにしながらも深く頷いた。
 コーヒーが運ばれてきて、風見はそれを一口飲んで喉を潤すと、封筒の中身をざっと眺めた。

「珍しいですね、よほど急いだんですか」
「そうなの」

 いつも使う暗号を解析ツールにかける時間も惜しい。だから、ドイツ語にした。警備企画課に、確実に読める内勤の人間がいると知っているからだ。
 というわけで、元々の約束の目的もさっさと済ませなければならない。
 ソファ席で体の横に置いていた紙袋を手に取って、風見に差し出した。

「それと、これ。今日はバレンタインだから、よかったら編集部の皆さんで召し上がって」
「あぁ、ありがとうございます」
「次の予定があるから、これでお暇するわね」
「えぇ、ではまた」

 風見が立ち去りやすいように、用事を終えてすぐ席を立った。自分の分の伝票をレジに出して、会計を済ませる。
 一番危険な受け渡しは終わった。
 それから一度家に帰って、私服に着替えて大きめの紙袋を持った。
 一番は少年探偵団の子たち用につくった生チョコタルトの箱が大きい。そして赤井さんとコナンくん、博士と哀ちゃん用に少し特別に用意したものと、知り合いにあった時用に買った小さめの市販品の箱がいくつか。それと、本命宛の、……渡せるかな、これ。
 一応、本当に一応、手作りも市販品も用意してきた。
 手作りを断られたら流石に三日くらい立ち直れないし、市販品を出してみて、期待外れとか、ちょっとしょんぼりとか、そういう態度を見せたら冗談だと言って手作りの方を渡す。これがわたしの立てた筋書きだ。
 博士に連絡したところ、今日はバレンタインなのでチョコレートパーティーをするという答えが返ってきた。食べるものが増えて申し訳ないけれど、少年探偵団の皆にと作ったものがあるので持って行っていいかと尋ねたら、ぜひと返された。
 よかった、博士の家に集まるのか。
 子どもたちの下校に合わせて始められるように博士の家を訪ね、パーティーの準備を手伝った。こっそり渡せるかが怪しかったので、特別お世話になっている博士と哀ちゃんに、と持ってきたチョコスコーンは先に渡して隠してもらう。
 コナンくんには、ポアロに夕食を食べに行くと言って送るついでに渡せるはずだ。
 子どもたちが帰ってきて、博士は自身が制作したというチョコファウンテンの調整をしているところだったので代わりに出迎えると、とても驚かれた。
 来た理由を話せば、たいそう喜んでくれた。
 チョコファウンテンを見つけて部屋に駆け込む元気な三人の後を、苦笑しながら追ってくるコナンくんの肩を叩いた。
 哀ちゃんはちらりとこちらを見たけれど、特に気にせず歩美ちゃんに話しかけている。

「なに、千歳さん」
「帰りに渡したいものがあって。ポアロに行くから、送らせて。それと、お隣に用事があるから」
「了解。適当に誤魔化しとくよ。千歳さんも参加するんだ?」
「手伝ってたら博士に誘われて。迷惑じゃなければ」
「大丈夫だよ。行ってらっしゃい」

 優しく笑うコナンくんの見送りを受けて、小さな紙袋を持って隣の工藤邸のチャイムを鳴らした。

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