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コナンくんが聞きたがることにはすべて答え、ひとつ仕事をもらった。
潜入していたお城でのパーティーの参加者の中に、日本人がいないかを確認すること。コナンくんはどこか引っかかるところがあるようで、わたしがその時の音声データをすべて持っていることを知るとわたしにそれを探してほしいと訴えてきた。
その他のことはじっくり考えるから、資料を持ち帰らせてほしいとも。
元々の資料はドイツ語のものだけれど持っているし、コナンくんに渡すために訳したものだから、どこかに漏れることさえなければ問題はない。
訴えすべてを承諾して、時間も経って暗くなっていたので今日は工藤邸に泊まるというコナンくんを送っていくことにした。
「毛利先生や蘭ちゃんには連絡してあるの?」
すっかり暗くなった道を歩きながら、横を歩くコナンくんに尋ねる。
「うん、しばらく泊まるってことは伝えてあるよ」
現在の保護者に対しては心配要らない。……となると。
「……ご両親に連絡しておいた方がいいかしら? 危険なことに巻き込むのだし」
匿ってもらい、息子を危険に巻き込んで助けてもらいと、お礼を言わなければならないことを増やすばかりだ。
いや、今回の件はむしろ謝罪するべきだろうか。
「ボクは今回は千歳さんに指示を出すだけだし、そこまでオーバーにしなくていいよ? そもそも千歳さんの事情も知らないし」
「……それはそうだけれど」
コナンくんも赤井さんも、わたしのことは相変わらず誰にも秘密にしておいてくれているらしい。
「知らないフリは千歳さんの十八番でしょ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて言うコナンくんに、うっと言葉が詰まった。
「っ、それもそうなんだけれど……!」
嘘をつくことに対する罪悪感は、とうに捨て去っている。
けれどもコナンくんを危険に巻き込むということに対する工藤夫妻への罪悪感は、そう簡単に捨てられるものじゃない。
「じゃあボクから伝えておくからさ」
「……わかったわ」
言い包められたような気がしないでもないけれど、コナンくんが言っておいてくれるのならとそれに従うことにした。
工藤邸の前に着いて、コナンくんは渡した封筒を大事に抱き締めながら顔を見上げてきた。
「ところでさ、千歳さん」
何か大事な質問なのだろうと、屈んで目線を合わせる。
その瞳は凪いでいて、探りを入れるようなまっすぐな視線が向けられた。
「まだ、自分が死んでもいいと思ってる?」
コナンくんの問いに、目を見開く。
今ある問題を解決しないうちは、死ぬわけにはいかない。だからベルモットと対峙するときも安全な道を選んだ。
じゃあ、問題が解決したその先は?
――思い起こすのは、水族館や公園で見た親子の姿。食卓で笑い合う両親の姿。
微笑ましく思いながらも、ずっと、羨ましいと思っていた。
懐かしくて帰りたかった? ――否。
子どもが欲しかった? ――否。
あんな風になりたいって、羨ましく思ったのはどうしてだっただろう。
何度も願った。一緒にいられる時間が、彼に愛されている時間が、ずっと続けばいいと。
幸せそうなことが羨ましかったんじゃない。ただ愛する人と一緒にいることが、それだけが羨ましかった。
わたしはずっと、彼のそばにいたいと願っていた。――でも、それは死んだら叶わない。
気づけば、首を横に振っていた。
「――死にたく、ない」
危険だっていい。痛みや苦しみを味わう羽目になったって仕方がない。だけど。
「わたしは……できるなら、彼のそばで生きていたい……!」
何もかもに裏切られた気分になって、死んだっていいと思っていた。それで彼が、生き延びられるのならと。
けれどもコナンくんという心強い味方を得て、希望を抱いてしまった。欲張りになってしまった。
赤井さんのこともキールのことも守ったみたいに、わがままを押し通せる策を考えてくれるんじゃないかって。
「その言葉が聞きたかった」
突然割り込んできた第三者の声に、驚いて顔を上げる。
工藤邸の門扉の向こうに、赤井さんが立っていた。
コナンくんは特に驚いている様子がない。まさか、知っていた?
慌ててコナンくんの顔を見ると、コナンくんは苦笑して自分の服の襟に手を伸ばした。襟から何かを取って、見せてきたのは博士作らしい小さな機械だ。
赤井さんは、片耳にイヤホンを差している。
コナンくんは、自分に盗聴器を仕込んで赤井さんにわたしとの会話を聞かせていたのだ。
「ごめんね、千歳さん。でも赤井さんも千歳さんの味方だよ」
「……どうして?」
「千歳さんは自分の身を守れない。ボクも千歳さんを守ってあげられない。それで千歳さんが"死にたくない"って言うんなら、用心棒は必要でしょ?」
「それは……」
コナンくんの言うことは正論で、けれどわたしは一度赤井さんに守られることを拒んでいる。
ただでさえ身を隠し、哀ちゃんのことだって休みなく守っているというのに、どうしてわたしを守る暇なんて作れようか。
真意を測りかねて戸惑っていると、赤井さんは門を開けて家に入るように促してきた。
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