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自分の仏壇があるのを見るのは、とても奇妙な気持ちだ。遺影ももうちょっとマシな写真にしてほしかったと思いつつも、最近撮った写真がないのだから仕方がないかと思い直す。死んだ人ってこんな気持ちになるのだろうか。
自分に向けて手を合わせるという滑稽にもほどがある儀式をして、勧められた懐かしいダイニングチェアに座った。
「本当に、わたしに似ていますね」
「そうなのよ。でもびっくりね、サングラスを取ったら千歳とは似ても似つかない吊り目の女の子なんだもの」
零さんのみならず、コナンくんや沖矢さん、女の子である哀ちゃんすら騙し通したアイラインはこちらでも無事活きてくれているらしい。
「それで、その……娘さんが亡くなったと聞かされた、というのは……?」
死体はないはずだ。
それなのに、"死んだ"と警察が断定した。不可解に思った。
母はお茶を一口飲んで、哀しげに笑んだ。
「認定死亡、っていうんだったかしらね。詳細は聞けなかったんだけどね、遺体が見つからなくて身元は確かめられないけれど、状況から見て亡くなった被害者は私の娘である可能性が高いと判断した、って言われたわ」
そうか、だから。
家族にすら詳細が話されない事件というのも気になるけれど、遺体がさっぱり見つからないのなら、わたしでない本当の被害者が見つからないままになったということも考えにくい。少しだけ、安心した。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね」
「え? あぁ……わたしは、黒川恵梨、といいます」
咄嗟に黒川さんの名前を借りた。
母はにこりと笑って、またお茶を飲む。
「恵梨さんね。どこに帰る予定だったの?」
「明後日のお昼には、日暮里にいないといけなくて……」
「そうなの、じゃあ主人に車を出してもらうから、今日明日は泊まっていきなさい」
「え!? でも……」
「ここからだと東京へ行けるような交通手段がないのよ。主人は明日も仕事だし、ね? きっとここで会ったのも何かの縁」
宇都宮さんからも哀ちゃんからも"お人好し"と称されるのは、この母親の元で育ったからなのかもしれない。
探されているわけでもないのなら、身を隠す必要はない。けれど、落ち着いて休める場所があるというのは非常に魅力的だ。
それに、片付けなければならない色々を、処理できるかもしれない。
押し切られた風を装って、お世話になることにした。
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家事を手伝いながら、娘との思い出を語る母の話に耳を傾けて過ごした。
随分と楽しそうに語られて、こちらが気恥ずかしくなってしまう。
便りがないのが元気な証拠と思っていたら、会社から音信不通だと連絡があって、捜索願を出して、半年間気を揉んで過ごして。その結果が死亡だというのだから、母も本当は見知らぬ女なんかに気を遣っている余裕なんてないのかもしれない。
それで気が咎めて断ろうとすれば、引き留められてしまった。
夜になって父が帰ってきて、わたしを見てとても驚いていた。けれども母にしたのと同じように偽名を名乗り、呆れられても仕方のない迷子の経緯を伝えると、苦笑して明後日東京まで送ってくれると言ってくれた。父もお人好しだった。
「恵梨さん、酒はイケる口かい?」
日本酒を出されて、少しでも"穂純千歳"から乖離しようと頷く。
「……少しでしたら」
「娘は日本酒なんぞ飲めん、と言ってなかなか付き合ってくれなくてね」
「あなた、あまり飲ませちゃだめよ」
「わかってるよ」
よく似た女と酒を酌み交わすだけで、嬉しそうにされる。一度だけでも付き合ってあげれば良かった、なんて後悔しても遅いのに。
「奥様から伺いました。娘さん、わたしなんかと違ってとてもしっかりした方だったんですね」
「いやいや、しっかりしてはいるが男の陰なんてついぞなくてね。心配は尽きなかったよ」
「そうなんですか……」
仕事三昧でそれどころじゃなかった。遠い地でとんでもないイケメンと両想いになりましたよ、なんて内心で呟きながら、お猪口に注がれた日本酒を喉に流し込んだ。
かっと熱くなる喉を無視して、言葉を続ける。
「いろいろと手続きも大変でしょうに、わたしなんかの面倒を見させてしまってすみません」
「はは、正直に言って娘のアパートを引き払ったり、形だけになってしまったが葬式もしたりして、いろいろと厳しくてね……。君にする話じゃないんだが」
「いいえ、お気になさらず。お酒の席での愚痴なんて、朝には忘れているものですわ」
父の言葉が引っかかった。まさか、何も手続きをしていない?
節税のために保険に入っていた。掛け捨てのものもあって、死亡保険金は良い金額だったはずだ。積み立てのものだって、葬式費用を賄える程度には死亡保険金を設定していたはず。
「あの……娘さんは、保険なんかには入っていらっしゃらなかったんですか? しっかりした方のようですし……」
「娘の荷物は持ち帰ってきたんだが、全部は見られていなくてね……」
疲れたように笑う父の姿に、胸が痛んだ。
精神的にも経済的にも負担をかけて、とんだ親不孝な娘になってしまったものだと思う。
「……その娘さんの荷物、見せていただけませんか」
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