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「安室さんとも知り合いなんですか? どういう関係?」

 安室さんとわたしのやりとりを見ていた園子ちゃんが、興奮気味に質問してきた。コナンくんが彼女が居合わせるこの場にわたしを置いたのも頷ける。
 少しでもイケメン店員と知り合いであることを知れば、恋愛関係のお話が大好きなこの年頃の子が食いついてくるのはごく自然なことだ。
 わたしに話をさせる間に、沖矢さんを休ませたかったのだろう。阻止させてもらうけれど。

「彼の本業が探偵なのは知ってる?」
「はい」
「ずっと前に依頼したことがあって、最近ここに来たときに再会したのよ。そのあと個人的に関わりができて、ちょっとした相談もさせてもらってるの。昨日もダイレクトメールに混じっていた仕事の手紙を捨てちゃって、焦って慌てて連絡しちゃった」
「それでさっきの話になるわけかぁ! 安室さん博識だものね」

 蘭ちゃんも園子ちゃんも、それで納得してくれた。一方で、コナンくんはこちらをじっと見る視線は変わらないまま、ゆっくりと口を開く。

「千歳さん、手紙を間違えて捨てることなんてしなさそうなのに」
「たまにはそんなこともあるわよ」

 ばっさり切り捨てて、ハムサンドに手をつけながらまだ何か聞きたそうな園子ちゃんに視線を向けた。

「安室さんのことはどう思ってるんですか?」
「ちょっと園子!?」
「気になるじゃない! あのイケメン探偵と個人的な関わりがあるなんて」
「恋に多感なお年頃だものね、仕方がないわ」

 窘めようとする蘭ちゃんを宥めて、ついと視線を宙に向けた。

「そうねぇ……頼れるお兄さん、かしら」
「それだけですか?」

 不満そうな園子ちゃんには悪いけれど、今のわたしと"安室さん"の関係はその程度のものだ。
 コナンくんは"バーボン"と協力関係にあることを知っているけれど、この場で言うはずもない。

「それだけよ。ちょっと酷い目に遭ったから、当分恋はいいかなって思ってるの」
「えー! 何があったんですか?」
「結婚詐欺に引っかかりかけたのよ。間抜けでしょ」
「そんなの女の純情を弄ぶ輩が悪いに決まってるじゃない!」

 我が事のように怒ってくれる園子ちゃんには悪いけれど、そんな事実はない。
 苦笑いで流しつつ、またハムサンドを齧った。
 二人の話に付き合いながら、ハムサンドとフルーツタルトでお腹も満たされた。
 息抜きもできたし、そろそろ帰ろうか。架空の用事で留守電を入れてくれた哀ちゃんへのフォローもしなければならない。

「それじゃ、わたしはもう行くわね。相席してくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ話に付き合わせちゃいましたし」
「またお茶してくださいね、千歳さん!」
「じゃあね、千歳お姉さん」

 見送ってくれる三人に手を振り、カウンターの中にいる安室さんに会計をお願いした。
 蘭ちゃんたちはまだお茶を続ける様子だったので、相席のお礼にとクッキーをお願いして、それも含めて会計をしてもらう。ポアロで安室さんにお会計をしてもらうときは、常にお釣りが出るように支払う約束だ。
 お釣りに交ぜて渡された小さなUSBメモリを確認して、財布に入れた。どうやら仕事の依頼があったらしい。
 ポアロを出て、鞄からスマホを取り出しサイレントモードを解除する。二件の留守電を聞いて話を合わせられるようにし、哀ちゃんに電話をかけた。

『もしもし』
「穂純です。哀ちゃん、ごめんなさいね。お昼ごはんを食べていたの」
『えぇ、そうだろうと思っていたわ。それで、午後は空いてるのかしら?』
「空いてるわよ。お茶請け用のお菓子が欲しいのよね、ちょうど駅の近くのデパートで銘菓フェアとかいうのをやってるし、見に行かない?」
『いいわね。駅前で待ち合わせしましょ』
「えぇ。着いたら連絡してちょうだい」

 哀ちゃんを待たせてもいけない、早足で駅に向かった。
 お茶請けのお菓子が欲しかったのは事実だったので、哀ちゃんと一緒に見て回って、日持ちのするものをまとめて購入した。
 付き合ってくれたお礼にと哀ちゃんと博士用に好きなお菓子を買ってあげて、阿笠邸の近くまで送り届けた。


********************


 ポアロでの一件から、コナンくんから街中でじっと見つめられる頻度が高くなった。どうにか沖矢さんが休むための時間を確保しようとしているのだろう。
 いい加減哀ちゃんとの接触をやめさせたい、そう考えてもいるはずだ。
 バーボンと繋がりがある時点で、わたしにどんな思惑があろうが哀ちゃんにとって危険であることには変わりがない。いっそ哀ちゃんを騙していると考える方が自然だろう。
 どうにかしようとする行動が表に出てきているのなら、そろそろいいだろうか。遠くから見ていたコナンくんと敢えて目を合わせ、路地に入った。
 慌てて追いかけてくる足音を聞きながら、角を曲がって足を止める。
 振り返ると、ちょうど追って曲がってきたコナンくんと向き合うかたちになった。

「こんにちは、コナンくん」
「……こんにちは、千歳さん」

 コナンくんの警戒したような視線。背後で足音が聞こえて、隠す気もないのだなと考える。

「何かお話があるのよね?」
「うん。来てくれるよね」
「断った場合は?」
「悪いけど、今日は譲らないよ。理由はわかるよね」

 幼さを残しながらも低い声で言われ、肩を竦めて見せる。
 顔だけで振り返り、背後に立っている人物が沖矢さんであることを確認した。

「さぁ、一体何のことだかさっぱり。でもいいわ、付き合ってあげる」

 背後に立つ沖矢さんからも、見慣れたスニーカーを履くコナンくんからも、逃げることは不可能だろう。
 下手に逃げて怪我をするのも避けたい。
 元より、疲れ切った彼と話をするのが目的だった。だから焦って接触を図ってきた今は、うってつけの機会なのだ。
 コナンくんがいるのならいい。工藤邸はどうかという問いに頷いた。

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