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 電話で他愛のない話をしたり、一緒に出掛けてウインドウショッピングやお茶をしたり、お泊まり会をしたり。ここ数日は"協力"と銘打ちながら、哀ちゃんと楽しく過ごさせてもらっている。
 本当の年齢を知っているから、小さな体にフォローは入れつつも、歳の近い友人として接していた。
 哀ちゃんは思いの外協力的で、頻繁に泊まりに来てくれる。徒歩で来られる程度には家が近いので、さほど苦でもないのだろう。コナンくんが心配してあれこれ問い詰めてくるのも嫌なのかもしれない。
 わたしの方はといえば、阿笠邸には近づかないように生活をしていた。うっかり沖矢さんに捕まれば厄介な事態になることは明白だったからだ。
 自分でしていることとはいえ、盗聴器のそばで生活するのは少し緊張する。自分の部屋に置いている物もバッテリー切れがいつなのかわからないので、少しだけ気を張って生活していた。ランチを兼ねて息抜きでもしようと思い立ち、ポアロに向かった。
 入り口のベルが鳴ると、安室さんがカウンターから出てきた。ちらと店内を見回すと、休日のランチタイムという時間帯のせいか、満席だった。

「いらっしゃいませ。すみません、ただいま満席でして。少々お待ちいただいても?」
「安室の兄ちゃん、ボクたち相席でもいいよ? あ、オレンジジュースのおかわりをお願い!」

 申し訳なさそうに言う安室さんの言葉に頷く前に、幼い声に遮られた。
 声のした方向を見ると、にこにこと笑うコナンくんが立っていた。
 安室さんは膝に手を乗せて屈み、困ったように笑った。

「"ボクたち"って、勝手に決めていいのかい?」
「大丈夫だよ! ね、蘭ねーちゃん、園子ねーちゃん」

 コナンくんが振り返った先には、毛利蘭ちゃんと鈴木園子ちゃんがいた。

「はい! 大丈夫ですよ。そちらの方が良かったらですけど……」

 蘭ちゃんの言葉に、園子ちゃんもうんうんと頷いている。
 せっかくの好意なら、受けておくことにしようか。大事な人が近くにいるのなら、危険を冒すような真似はしないだろう。

「そうね、お願いしようかしら」
「ではこちらへ。コナン君はオレンジジュースのおかわりだったね」
「うん!」

 席に案内されて、ソファ席の園子ちゃんの隣に座る。安室さんはオレンジジュースとお冷と一緒にメニュー表を持ってきた。
 ざっと眺めて、特に新作メニューはないことを確かめてから安室さんの顔を見上げた。

「ハムサンドとカフェラテ……あとフルーツタルト。これでお願いするわ」
「かしこまりました」

 メニュー表を安室さんに渡して、正面に座るコナンくんを見遣る。コナンくんはストローを吸いながら、じっとこちらを見ている。
 気にしないことにして、こちらを興味津々に見てくる女子高生二人組に顔を向けた。

「ごめんなさいね、お邪魔してしまって」
「いえ! こちらこそ、余計なお世話じゃありませんでした?」
「とんでもない。実はお腹がぺこぺこだったの」

 茶化して言うと、二人は"良かった"と顔を見合わせて笑った。

「ガキンチョはこの人と知り合いなの?」

 園子ちゃんの問いに、コナンくんはこくりと頷いた。

「うん! 穂純千歳さんっていって、博士が参加してたイベントで知り合ったんだ。通訳とか翻訳を仕事にしてるんだって」
「へぇ……。あ、私は毛利蘭っていいます」
「毛利?」

 二階が毛利探偵事務所であることは知っている。
 姓に引っかかりを覚えた素振りを見せると、蘭ちゃんはこくりと頷いた。

「はい、上で探偵事務所をやっている小五郎の娘です」
「そうだったの。あなたのお父さんには先日とてもお世話になったのよ」
「父から伺ってます。いただいたビール券に大喜びしていて……」
「あら、そんなに喜んでいただけたの。良かったわ」

 蘭ちゃんが苦笑いを浮かべていることから、しばらくビール漬けだったのかもしれないと考えた。娘の蘭ちゃんには悪いことをしたかもしれない。
 園子ちゃんに視線を向けると、こちらも自己紹介をしてくれた。
 とりあえず、二人の名前はわかった。制服は着ていないので通っている高校は知らないことにしないと。

「お待たせいたしました」

 安室さんが注文したものを運んできた。
 お冷を退かして、それらを置いてもらう。

「そういえば、回収できたんですか?」

 唐突な話題についていけず、安室さんの顔をまじまじと見る。

「え?」
「ほら、昨日慌てて連絡してきたじゃないですか。"大事な手紙を間違ってゴミに出してしまった"と」

 話の意図がようやく掴めた。"経過はどうだ"と聞いてきているのだ。

「あぁ、そういえば電話がつながらなくてそのままだったわね。えぇ、ちゃんと"拾えた"わ」
「そうですか、それは良かった。では、ごゆっくり」

 にっこりと笑った安室さんが席を離れていくと、コナンくんは目を眇めてこちらをじっと見てきた。そして、徐にスマホを取り出して何かし始める。
 なんだろう、わたしに相席するよう勧めてきたのも引っかかる。敢えて盗聴器の近くで生活していることは伝わっているはず、その意図を理解しているのだとしたら。……沖矢さんに仮眠の時間を与えるため? それはまずい。
 こちらもスマホを取り出して、哀ちゃんにメールを打った。二、三十分ほどずつ間をおいて、午後の遊びのお誘いの留守電を入れてほしいというお願いのメールだ。電話がきていることに気づかれても厄介なので、スマホをサイレントモードに切り替えて鞄に入れた。

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