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 プレゼント用の紙の小箱とラッピング用品を手に入れて。カムフラージュ用の個包装のクッキーも買った。ついでに地下のスーパーで食料品の買い物もして、その後"そういえば"と思い立ってテレホンカードを探し回った。結局帰宅したのは日も暮れかけた時分だった。
 動き回ってお腹が空いたので、夕食を作って食べ、シャワーも浴びた。あとは寝るだけとなるように色々終えてから、今日手に入れた物を持って書斎に向かう。
 ワークデスクの上で、底上げできるタイプの小箱を分解して、底にドクターからもらったUSBメモリをセロハンテープを使って貼りつけた。それからテレホンカードと、"見たらUSBメモリごと処分してほしい"という伝言と自分の携帯電話の番号を書いたメモを一緒に入れて、中敷きを戻す。テレホンカードを入れて置けば、公衆電話から電話してくれるだろう。赤井さんがどうやって盗聴しているのかわからないのでそこが怖いところではあるけれど、確実に盗聴されているとわかる家からかけてくるというリスクは減らせるはずだ。
 ストーカーから匿ってもらっていたとき、哀ちゃんが箱をきちんと分解して厚紙として処分しているのを見た。几帳面な性格のようだし、この箱も最後には潰して、気づいてくれるだろう。
 それから中敷きの上にクッキーを敷き詰めて、蓋をしてラッピングした。
 白に薄い灰色のストライプ模様が入った包装紙に、紫色のリボン。哀ちゃんをイメージしたらこんな配色になった。我ながら綺麗にできたので、少し眺めて満足してから鍵のかかる棚に仕舞い込んだ。
 薬のデータの入ったUSBメモリについては、風見にも知られているかもしれないのでコピーを作った。他にもデータの入ったUSBメモリがあるので、必要に応じて翻訳し、それと一緒に渡す約束だ。ちらっと中身は見たけれど、何かの研究資料だということしかわからなかったので、哀ちゃんが理解してくれることを祈るしかない。
 必要な物の準備ができたところで、真っ白なコピー用紙を何枚かデスクの上に広げた。
 出会ってからのことを思い返しながら、コナンくん、哀ちゃん、赤井さんがわたしに関してどういう情報を得ているのか、どういう認識でいるのかの予想を書き出す。

 コナンくんとは、宇都宮さんからの依頼で参加したイベントで出会った。彼はわたしが哀ちゃんを控え室まで送り届けたときに周囲を警戒していたことを気にしていた。帰りにわたしに対して"何者か"とまで訊いてきたから、勘に訴えられていたのかもしれない。その場は"特撮の見過ぎだ"とからかって、コナンくんと哀ちゃん、二人の年齢が年齢に伴っていないことに突っ込んで何とか切り抜けた。会えばつつくようにして探りを入れてくるけれど、まだ駆引は苦手なのか核心を突くようなところまでは入り込まれていない。けれど、哀ちゃんから確実にわたしがバーボンと繋がっていることが伝わってしまう。赤井さんとの情報共有がされていたのかわたしと安室さんが知り合いであることも知っていたし、ただ疑いが確信に変わるだけのことではあるだろうけれど。そうなれば、わたしの素性、加えて犯罪者であるかどうかを確かめなければと本腰を入れるに違いない。
 哀ちゃんとの接触は、変声器が壊れて声で組織の人間に存在がバレるのではないかと怯えていたところを、代わりに台本を読むことで助けたのが最初だ。特に警戒されてはいなかったと思う。コナンくんが組織について質問しようとしたときだけは、注意深く観察してきていたけれど。その後のストーカーの一件では本気で心配してくれていたことが伝わってきたし、ずいぶん懐いてくれていたなと思う。お城で会ってから、哀ちゃんからのわたしに対する認識は、"組織のことを知っている"、"自分の命を狙ったバーボンと手を組んでいる"、"自分に協力してくれることはない"という、最悪の組み合わせで成り立っていることだろう。
 赤井さんについては、いま思い返しても情けない失敗でしかないバーでの一件が出会ったきっかけだ。わたしが安室透と知り合いだということを知って、赤井さんは"安室透からは離れた方がいい"と忠告してきた。それに対しては"理由を聞かないと納得できない"と赤井さんを苛つかせつつ反論しておいた。今回の件でコナンくんからわたしが"安室透をただの探偵だと信じているのではなく、バーボンと知って繋がりを持っていた"と伝わってしまえば、一番怖いのは現職の捜査官である彼だ。彼は沖矢昴として生活しているし、わたしも情報提供をしているだけなので、極端な話ではあるけれど突然脳天を撃ち抜かれることはないと思っていい。けれども彼は会ったときどころかストーカー被害のせいで疲弊しているときにも探りを入れてきたような神経の図太さだから、油断はできない。"組織については知らない"、"安室透をただの探偵だと信じている"、これらが全部嘘だったのだ。一番距離の近い哀ちゃんを引き離すためにも、わたしに関して事実確認をしたがるだろうことは明白だった。
 全員バーボンがスパイであることを知らない以上、わたしに対しても敵だという認識を持っているとみて間違いない。

「……やっぱり渡すの難しいなぁ」

 赤井さんにお酒や薬を飲ませるのに比べたら遥かに簡単ではあるのだけれど。
 出かけていればコナンくん、家にいれば博士と沖矢さんが警護しているのだ。哀ちゃんに直接接触するのは、本当に難しいかもしれない。
 ポストに放り込もうにも、見られたらアウトだし送り主がわかれば捨てられるかもしれない。わからないようにしたとしても、そんな怪しいものわたしだって開けない。
 デスクに突っ伏して、どうしたものかと悩む。
 安室さんのように堂々と接触できればいいのかもしれないけれど、生憎とコナンくんたちとの共通の知り合いは宇都宮一家を除けば事情を知る人ばかり。裏の事情を知られないようにと振る舞う必要もないから、こちらが追い詰められることは必至。ままならないものである。
 考えても案は浮かびそうになかったので、寝ることにした。
 寝室に行ってベッドに突っ伏し、忘れていたスマホを確認する。
 一件だけ安室さんから着信が入っていて、慌てて折り返した。

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