den of devil plant

「イオリ、イオリ! カデットが戻ってきたから修行の説明するって!」


 ベポちゃんの声に、目が覚める。
 一拍遅れて言葉を噛み砕き、慌てて身を起こした。
「おはよう、イオリ」
「ベポちゃん、おはようございます」
 周りを見るとクルーの皆は砂浜に下りる途中のようだった。
 私とベポちゃんも船を降りて、カデットさんの声が聴こえるところに座る。
 皆が集まると、カデットさんは自己紹介をし、それから修行について説明を始めた。
「まずは、"覇気"の説明が必要か。オレは"覇王色"は使えねぇから、"武装色"と"見聞色"だけ身に着けてもらうことになる」
 そもそも"覇気"とはなんなのか。三つの"色"、それぞれを身に着けることによってできること。どうやって目覚めさせるのか。それらを説明したカデットさんは、私へと目を向けた。
「イオリ、お前は"覇気"は覚えなくていい。ローたちが修行している間、念能力の強化に力を入れろ」
「わかりました。……理由を聞いても?」
 カデットさんの言うことは間違ってはいないと思うし、ちゃんと言うことも聞くつもりだけれど、理由も気になる。カデットさんは気を悪くした様子もなく、丁寧に説明をしてくれた。
「あぁ。"覇気"ってのはさっきも言った通り、気迫のことだ。これに対して"念"は自分の生命力……オーラを使うものだ。どっちも使えるようになるには時間がかかる、いわゆる"外法"で目覚めることもできる。"覇気"も"念"も、肉体の強化と索敵に有用。イオリは"覇気"使い特有の気配がどこか表面的だと言ったが、これは命っていう根本的な力を使うか、単に気迫を使うかの違いだと思う。この違いによってもたらされるものは何だと思う?」
「……リスクの違い?」
 ぽんと思いついたことを言ってみると、カデットさんは頷いた。
「"念"は"制約と誓約"があれば能力の強化もしやすい。"覇気"にはそれがないが、事故で目覚めたとしても扱いに慣れるまでが大変なだけで死に至るケースはないんだ。当然"念"も"覇気"も鍛錬次第で強くなるが、その違いで強さの跳ね上がり方が違う。新しく"覇気"覚えるより、今まで使ってた"念"を強化した方がいいって思うだろ。"念"は悪魔の実にも"覇気"にも対抗できるから、デメリットはない」
「はい」
「よし、イオリも納得したし、移動するぞー……って、どうしたお前ら」
 カデットさんの言葉につられて、クルーの皆の顔を見る。ローさんを除いて、とても神妙な顔をしていた。
「あの、皆さん……?」
 ローさんもなぜ皆がそんな顔をしているのかわからないようで、目が合っても首を横に振られた。
「イオリ、お前……。念を使ってるせいで寿命が短いとかねェよな?」
「え?」
 シャチさんの言葉にも、首を傾げるしかない。
「だって、"命を使う"って……」
 ベポちゃんが発した言葉で、ようやく皆が落ち込んだ様子を見せていた理由が分かった。
「オーラは使えば確かに消耗します。なくなったら死にます。ですが休めば回復しますし、オーラを正しく纏ってさえいれば老化防止の効果もあります。……だから、寿命が短くなるどころか、長命だと思いますよ」
 現に私の外見も、十代のまま変わっていない。
 私の説明に、皆はほっとしたように溜め息を吐いた。
「そっか、なら良かった」
 修行に最適な場所があるというので、特に戦闘能力の上昇を必要としていないコックさんや船大工さんを船に残して、移動を始めた。
「イオリ、お前は毎日最初に系統別の修行。これは変わらず一日一個な。強化系はあとで教えるところでやれよ。そんで、その後はこの島の植物相手にしながら山の麓と天辺を往復。目印が3色あるから、順番にな。まだ最初だから一日で終わるのは無理だろうけど、最終的には一日で3往復はできるようになってもらう」
「わかりました」
「そういや、お前"念"は誰に教わったんだ? "外法"を使ったにしては、ちゃんとしてるっつーか」
「戦闘の基礎を含めて、初めはヒソカに教わっていました。短期間だけ、ビスケット=クルーガーという方にも教わりました」
「ビスケ師匠か!」
 嬉しそうに言うカデットさんに首を傾げると、カデットさんは頭の後ろを掻きながら照れくさそうに、けれど誇らしげに言葉を続けた。
「オレもあの人に弟子入りして教わってたんだよ。じゃあ系統別の修行については説明要らないな」
「はい、大丈夫です」
 途中、道の脇の森の入り口に赤いリボンの結ばれた木があるのを見つけた。
「イオリ、そのリボンの向こうに足を入れてみな」
 カデットさんの言葉に頷いて、森の奥の様子を窺いながら足を踏み入れる。
 ――瞬間。
「……ッ!」
 植物の蔓が、首元めがけて襲い掛かってきた。咄嗟に腕で庇うと、手首に巻きついて締め上げられる。引き摺り込もうとする力に抗い、無理矢理引きちぎって追撃をかわしながら後退し、リボンより後ろに下がった。
 追撃は、こない。
 手首に巻きついた蔓も、力を無くして手から外れて落ちた。
「奥の方、リボンがまだ結んであるのがわかるだろ」
「はい」
「今みたいにテリトリーに入ってきたのを殺しにかかってくる植物の攻撃をかわしながら、あのリボンを辿るのがメインの修行だ。"覇気"が使えるようになったヤツも挑んでいい。ま、生半可な技術で挑めば死ぬけどな。それはイオリもわかっただろ」
「……はい」
 手首には締め上げられた痕が残っていた。オーラの移動が遅れたために、防御力が足りなかったからだ。
「言い忘れてたけどな、この島、動物より植物の方が強いんだ。それがこの島の特徴だ。くれぐれも森には入らないようにな」
 私の手首を見てこの島の植物の恐ろしさは十分わかったようで、ローさん以外は青い顔で何度も頷いていた。
 手首にオーラを集中させて、痕を治す。
 カデットさんはそれを見て"注意もなしに入らせて悪かったな"と謝ってくれた。
「で、イオリは今から系統別の修行をやって、それからまずは"円"を維持して攻撃を避けられるようになれ。二時間で戻って来られるようになったら、次は防御のためのオーラの移動。それも二時間でできるようになったら、別の色のリボンを辿ってもらう。途中で無理だと思ったら森を抜ければいい。こっちで手伝いが必要になったら呼ぶから、そん時は協力よろしくなー」
 カデットさんが用意したらしい細身の腕時計を受け取る。
「わかりました」
 ローさんたちが修行する場所は山の土の部分が剥き出しになり、人に踏み均されたのか整地をされたのかはわからないけれど、平らになっている場所だった。広いから、大勢が戦闘の訓練などをする時には打ってつけの場所だろう。
 ふと視線を感じてそちらを見ると、ローさんと目が合った。そちらへ歩いていくと、ぽん、と頭に手を置かれる。
「無理はするなよ。大怪我したら元も子もねェからな」
「……はいっ」
 気遣ってもらえるというだけで、モチベーションは随分違う。気合十分に返事をすると、ローさんは満足げに笑んでひとつ頷いた。
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