ちかなり | ナノ



時々、長宗我部は西をじっと見遣る。その視線の先に何があるかは百も承知で、だから目を伏せた。

4年前の夏に出会った。気乗りしないと何度も断ったが押しの強い会社の同輩に海に連れ出される。夏の日差しは悪くない、ただ生臭い潮風はどうにも好きになれないのだ。何かをふと思い出しそうな感覚に胸がざわつく。海の家で休んでいると、よく冷えた茶が目前の安っぽいテーブルにトンと置かれる。コップを持つ手を辿れば大男が一人、こちらを心配げに見つめていた。アンタ大丈夫か。熱中症じゃねえよな。言いながら不躾に手の甲を頬に押し付けてくる。咄嗟に振り払った。なんだ、あんまり白いからてっきり。男は苦笑する。

気付けば通いつめていた。海のシーズンが終われば男は浜辺の近くの居酒屋で働き始めたから、場所は違えどまた通った。豪胆で粗暴だが馬鹿に気が利く。それが欝陶しくまた悔しくも心地良かった。酒を飲めばほどほどにしとけよ、と声をかけられる。悪酔いして酔い潰れたのは冬を越す頃。介抱すると言って、男は我を部屋に連れ込んだ。毛利、大丈夫か。首元に押し付けられた手の甲が、今度は意味を持ってなめらかに伝う。男の手は冷えていて火照った体には気持ちが良かったから、無意識に擦り寄った。

翌年、中途で男が入社してきた。半ば強引に引き抜き押し込んだと言ってもいい。通う道則は遠くなかったが、一度触れてしまったらそれはまた別の話だった。もとより器用で気前の良い男は職場にすぐ馴染む。それを見て少しほっとした。


最近気付いた。時々、長宗我部は西をじっと見遣る。その視線の先に何があるかを考え、すぐに思い当たる。ビルの街を越えて西の海に向かう長宗我部の瞳は穏やかだ。
泡になるのか。
それとも心臓を貫かれるのか。
頭の中で男にはあまりに不釣り合いなお伽話を当て嵌め、少し笑い、そして唇を引き締める。






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