お仕えいたします
松田×神山
今夜の晩ご飯どうしようかなぁ、久しぶりに肉じゃがなんていいかもな。あ、でもじゃがいもが無えな…帰りにスーパー寄って買っていくかなぁ。
「あのさぁ」
あ、そういえばこの間出したクリーニング取りいく日いつだっけ、あ、今日だった。中々今日は忙しいな。
「ちょっと!」
はぁ、やっぱり一人暮らしは大変だな。実家に住んでた頃は何でも親がやってくれてたからなぁ…母さんのありがたみが今になって分かるぜ…。今度の夏休みには帰ろう。
「ねぇ!!話聞いてるの!?」
「へ?あー、うん聞いてるよ」
ピーピーうるせぇなぁ、お前は鳥かっつーの。
「だったらいい加減に早く神山様と別れて!」
「だから別れないっつてるだろ。お前等が何て言おうと俺は言うこと聞かない」
毎日毎日別れろ攻撃、いい加減にしろってこっちの台詞だわ。神山の親衛隊?らしいけど本当何様のつもりなんだか…。まぁどうせ今日もいつも通りキャンキャン吠えて帰るだけだろうしな。
「君がそういう考えなら僕たちも手加減しないからね」
「あーはいはい。神山に頼み込むでもなんでもすればいいだろ…」
「神山様と別れてくれなきゃ神山様に被害がでるから」
は?こいつ何言って……
「お、おいどういうことだよ」
「明日の昼までに別れてなかったら神山様が痛い思いをすることになるよ」
「ふ…ざけるなよ、お前等神山のこと仮にも慕ってるってのにそんなこと出来るわけないだろ。ふっ、冗談もほどほどに…」
「本気だよ。じゃあ明日楽しみにしてるから、じゃあね?」
そういって高らかに笑いながらあいつらは去っていった。
嘘、だよな……神山が痛い思いするってそんなわけ、ないはずだ。そんなことすればあいつらだって罰が下るわけだし。
でも、もし…もしも本当だったとしたら…?俺が別れたくないと意地を張っているせいで神山に迷惑をかけることになってしまったら。
…駄目だ、あいつを傷つけるくらいなら別れた方がいい。もしかしたら神山が俺に言わないだけですでに何かされてるかもしれない。くそっ。
その時の俺の中にはすでに別れないという考えは無くなっていた。
***
放課後、神山のクラスに迎えにいく。いつも俺とあいつは一緒に帰っている、家が側にあるということと恋人だから、というわけだ。でも帰り道を共にするのはきっと今日が最後になるんだうと歩きながら考える。
もうそろそろ到着だ。
ーーそこの角を曲がれば神山の教室が…
「わっ!!」
「うぉお!?」
「ビックリしたでしょ!この僕を待たせたお仕置きだよ!全く、僕を待たせるなんて松田くらいだよ。いつも走ってこいって言ってたでしょ、なんで今日は遅かったのさっ!」
角を曲がった途端大きな声を出し驚かせてきたこの男が松田の恋人、神山である。
「悪い悪い、少し考え事しててな」
「ふーん?仕方ないから今日は許してあげる。でーも!次は無いからね!」
そして鞄持ってよね!と俺に鞄を押しつけてきた。
こいつは見ての通りツンデレ、というか…あれだ、気の強い女王様って感じで…とにかく面倒くさい性格なのだ。
一緒にいればプリンを買ってこいだの今のように鞄を持てだの、まるで手下の騎士みたいだ。
ふんっ、でも、そんな所すら愛おしく思えてしまうんだから俺も中々重症か。
「松田、何ぼけーっと突っ立てるわけ?早くいくよ!」
「あ、悪い悪い」
少し先にいる神山の元へと小走りで駆けつける。
この我が儘な女王様の側にいれるのも今日まで。
***
暑いから少し涼もうといって入ったのは帰り道にあるコンビニ。この時間帯は人が少ないからよくここに寄り道をするのだ。
「ふぅ〜、やっぱり涼しいね。まぁ外にいようが松田がうちわで扇いでくれればいい話なんだけどね?」
「そんな面倒くさいこと出来るかってーの。暑いなら自分で扇げ」
俺がそう言うとちぇっと舌打ちをしてから店内を歩き出した。大体いつもこんな感じで、あいつも気にしてはいない。これが俺たちの心地よい関係だ。
「あー!このアイスCMでやってたやつじゃ〜ん…あ、でも少し高いなぁ、松田ーこれ買ってよ!」
「それくらい自分で買えよ…」
女王様のおねだりに呆れてしまう。こいつは言うならば金持ちの部類に入るんだ、アイスの一つなんて大したことないはずなんだが、コンビニに寄ると必ず何か俺に買えと強請ってくる。まぁ買ってやったことはないが。
「やだね!今日こそは買って!」
「いやそれくらいは自分で買えって…」
「…あ、そうだ今日は家に財布を忘れてきてしまったー。なんてこった。だからぁ、買って!!」
あからさまに思いつきで言ったな…。ここまでの棒読み初めて聞いたぞ。まぁいいか、買ってやるか。
「最後くらい買ってやるよ。……あ」
「…え?ねぇ、最後って何?何のこと…」
「いや…何でもない、あれだ、お前の聞き間違いだ。俺はアイスくらい買ってやるって言ったんだ、うん」
忘れていた、俺は嘘を付くのが下手くそなのだ。ついでに言うと俺は動揺を隠すのも下手くそだ。
「そんなこと言ってなかった!絶対最後くらいって言ってた…」
「……」
「…そんなアイスもういいから帰ろう。ちゃんと話してもらうから」
何も言い返せなく無言になる俺に神山は押し殺したかのような声で言った。
あぁ、もう引き返せない。
***
コンビニを出て十分ほど歩いただろうか。あれから一言も言葉を交わしていない。二人して静かに夕日に照らされる細い道をとぼとぼ歩く。
「ねぇ、さっきの……ちゃんと話して」
静寂を破ったのは神山だった。
「ごめん…」
「なんで、僕には言えないようなことなの…?ちゃんと説明してって…」
「別れよう」
「……え…」
ごめん、本当にごめん…。付き合い始めた時に俺から別れを告げることは絶対に無いって、神山が俺のことを嫌いにならない限りは離れないって言ったのは俺なのに…。
でも、お前を傷つけるくらいならその約束も俺は破る。ごめんな。
「なんで、なんで…急に別れるって、どういう…ことなの」
「悪い…」
「謝ってないで教えてよ…っ…何か理由があるんでしょ。僕が我が儘ばっかりいうから…?だったらもう言わないから!ね?だから別れるなんて」
「違うんだ!!悪いのはお前じゃない、俺だから……全部俺が悪いから…別れてくれ」
「なんでだよっ!そんなこと言われたって納得出来るわけ……ってちょっと待てってば!!」
「もうこれからは関わらないでくれ、今までありがとう。…じゃあな」
そう言い放ち神山に背を向け大股で歩き出す。後ろから啜り泣く声が聞こえる。
ごめんと心の中でもう一度謝る。
神山、幸せになってくれな。愛してる。
***
今俺は中庭で一人昼飯を食べてる、昨日までは神山と屋上で食べていたが今はもう違う。昨日無理矢理別れを告げてから神山とは顔を合わせていない。向こうももう俺なんかには会いたくないだろう。
「松田ここにいたんだ。全く、僕に探し回らせるなんて偉くなったもんだよね〜」
は?ちょっ、え?
「お、お前どうして…」
「ちょっと!僕の名前はお前じゃなくて神山なんだけど!」
「かみ、やま……って違う!なんで普通に話しかけてくるんだよっ、……俺たちは昨日別れただろうが…」
何もなかったかのように話しかけてきた神山に思わず動揺が隠せない。まぁいつも隠せて無いがな、ははは……って笑ってる場合じゃないか。
「俺と関わってると大変なことに…」
「あぁ、あいつらのことね。大丈夫、あいつらはもうこの学校にいないからね」
ん?今こいつとんでもない爆弾発言をしたんじゃねえか?
「あー、悪いもう一回言ってくれないか?なんか勘違いしてるかもしれねえ」
「だから、あいつらはもう学校にはいないから大丈夫だって言ってるんでしょ!」
「はぁぁあ!?お、お前何やってるんだよ!」
「なんか僕の親衛隊って名乗ってる奴らがさ、急に僕の目の前に現れてさぁ」
『神山様!ようやくあのクソ男と別れられたのですね!!今まで別れられなくお辛かったでしょう……しかし、もう大丈夫ですね!僕達親衛隊としてもとても幸せなことでございます!これからは僕達が神山様の幸せをお守りします!』
「とか言ってきたんだよ。気持ち悪い上僕達の仲を引き裂いたんだ、すぐ校長に頼んで退学させてやったよ。まぁこれくらい当たり前でしょ。ほんっと信じられないよね、てか親衛隊なんて初めて聞いたんだけど!松田以外に好かれてたって全く嬉しくないっつーの。大体ねぇ…」
とんでもないことを口早にペラペラと喋り続ける神山。てか退学って……。内容が衝撃的すぎて驚くを飛び越して呆れてしまう。
そうだこいつは昔からこういう奴だった。小さい頃俺が理不尽な理由でいじめれれていたときも気付いたらそのいじめっ子は転校していて、あとから神山が手を回したと知ったこともあった。
「てか松田もなんで簡単に別れちゃうわけ?僕への愛はそんな簡単なことで無くなっちゃうの?僕昨日すっごぉーく悲しかったんだからね!!」
「わ、悪い……」
「これからは何があっても勝手に別れるとかやめてよね!!……ほんとに…」
あぁ、神山ごめん。お前がそんなに辛い思いをするなんて考えてもいなかった。好きでいてくれてるとは分かっていたがここまでだったとはな……。
「次はないと思ってよね!あ、もうそろそろ昼休み終わっちゃう、ってあー!僕お弁当食べてない!松田のせいだからねっ!今日こそはアイス買ってよね」
「はぁ、分かったよ。お前は本当に食いしん坊だな?じゃあ教室戻るか!」
「あ!だから僕の名前はお前じゃなーい!あと食いしん坊でも無いんだから!!ちょっ、こら無視しないでよねー!」
キーキー言いながら追いかけてくる神山に笑いがこぼれる。これからもずっとこの女王様に仕えていけそうで俺は幸せだ。
end.
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