02








 ……とうとう土曜日になってしまった。




 あの時の俺は何故こんなにも早く約束を取り付けてしまったのだろうか。宇佐美が浮気していようとも恋人でいれるだけでもよかったんではないか? 



 宇佐美が約束を忘れて来なければいいのに。そしたら別れなくたって……



 誰も居ない一人きりの静かな部屋で溜め息を一つ吐く。
 やはり今日別れを切り出さなければ。……宇佐美のためだ。俺が我が儘なんて言ってはないけない……。







ーーピンポーン
 






 あ……来て、しまった……


 重い足を引きずりながら玄関へ向かう。ゆっくりと鍵を開けて、ガチャという音と共にドアを開く。


「約束通り来たよ」

「…あぁ、入ってくれ」


 宇佐美はお邪魔しますと言って脱いだ靴を綺麗に揃える。


「そこらへんに適当に座ってくれ。飲み物を用意する」

「あ、別に気にしなくていいよ。話したいことがあるんだろ?」

「そ、そう…だな。話を先にしてしまおうか……」


 飲み物をいれることで話す前に心の準備を、なんて考えていただけ向こうからの提案に動揺してしまう。


「で、話ってなに?」

「その、だな……えっと…」

「早く言えって」


 何故かこんなときに限って急かしてくる宇佐美。はぁ、覚悟を決めなければ。今までありがとうな宇佐美……。



「別れよう」


「……え? どう、して」
「どうしてって、俺はお前のために」
「はぁ!? 俺がいつ別れたいなんて言ったんだよ!!」



 意を決して別れの言葉を言い放つと、宇佐美から想像していなかった返事をされる。



「お前最近いつも女と側にいるじゃないか。それってつまり浮気ってことだろ? お前は自分から別れを切り出しにくいから俺に別れようって言わせるためにわざと見せつけていたんだろう?」


「それはっ! 樋口に嫉妬してもらいたかったからわざと女子と仲良くしてたんだよ!!」





 えっと…それはどう、いう……




「え? ちょっと待て。色々と急すぎて頭がついていかない……。つまりあれか? 浮気はしてなくて、俺とも別れるつもりはないってことでいいのか?」

「当たり前だろ!!」



 今の感情を一言で表すとしたら、ほっ、というのが一番しっくりくるかもしれない。よかった……俺のただの勘違いだったのか……。あれ? なんで俺に嫉妬なんかさせようとしたんだ?




「……なぁ宇佐美、なんで嫉妬なんかさせようと思ったんだ?」

「ねえ、俺のこと好き?」



 は? きゅ、急にどうしたんだ宇佐美。でもとりあえず質問に答える。



「あ、あぁ…」

「……ほら、またそれだ。なぁ、気付いてる? 樋口って俺に好きだってちゃんと言ったこと一回も無いんだよ? だから好きって言われたいから嫉妬させればいいかなって……」


 宇佐美の言葉に固まる。今まで一度も好きだって言ってない?俺が? 全く気付かなかった……。なんで言ってくれなかったんだ。言ってくれればいくらでも言ったというのに。


「なんだ、そんなことだったのか」


「そんな…こと……?そんなことって何? 恋人に好きだって言われたいって思うのってそんなに変かな?」

「いや、ちがっ」

「俺は!!ただ好きって言われたかっただけなのに!!……っ…ひっ…なんでぇ…なんでっ」

「っ、宇佐美!?」

「うぅっ……もう樋口なんか知らな、…わっ」


 勘違いをして、何がなんだか分からなくなってしまったのか泣きだしてしまう宇佐美。帰ろうとする宇佐美の腕を咄嗟に引き腕に中に閉じこめ耳元で囁く。



「好きだ真」

「………へっ?あ、い、今好きって。って名前…!!」



 愛の言葉と共に中々勇気が出せず呼べずじまいだった名前を言葉にする。すると、彼は耳までを真っ赤にしてこちらを見つめてくる。



「今までちゃんと言葉に出来なくてすまなかった……すっかり言った気になっていたんだ。これからは気をつける、だからこれからも俺の恋人で居てくれないか?」

「も、もちろん!!……嬉しい。あっ、もう一回名前で…呼んでよ」

「あぁ、一回とは言わずに何度でも呼んでやるさ。……真」

「あぅ……」

「ん?どうした?まこと」

「も、もういいよ樋口っ」


 彼の名前を何度も呼んでいると照れたのかもういいと言われてしまった。あ。


「なぁ、真も俺のこと名字じゃなくて名前で呼んで?」

「…………かず、み」

「ふはっ、これからはずっと名前で呼び合おうな」



 俺の名前をその可愛らしい声で呟くと照れが限界に到達したのか俺の肩に顔を埋めてしまった。



 

 
 つい十分前までは絶望的な気持ちだったのに今では宙に浮いてしまいそうなほど幸せだ。これからはこの可愛らしい恋人が悲しまないよう気をつけなきゃな。







 愛してるよ、真。



end.



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