01
加藤悠斗(17)×山本要(17)
「んっ…………ふぁ〜」
暖かい日差しが差し込む窓のそば、外から聞こえる小鳥のさえずりで目を覚ました。
いつも起きるときは母さんに起こしてもらうのだが今日はその母の声が聞こえない。あ、悠斗からラインが来てる。
“悪い、家に筆箱忘れてきて取りに戻らなくちゃいけないから先行っててくれ!”
ははっ、悠斗忘れ物したのか。今日は筆箱かぁ、この間は生徒手帳じゃなかったかな。そんなことを考えながらラインを返す。
“大丈夫だよ。ちゃんと待ってるから焦らないでね”
そして着替えるためにスマホを閉じーーん? 今時間に違和感を感じたような…。
もう一度スマホを付けて時間を見ると八時三分。いつも起きる時間は七時半、そして家を出る時間は八時五分……。
「あああーーーーー!!!!!!!!」
寝過ごした!!!! この間も寝坊したばっかなのに! うわ、どうして母さん起こしてくれなかったんだよ! ってそんなこと考えてる暇はない、急いで着替えなければ。こんなときに限って靴下が上手く履けなくて苛々する。
そんなこんなで制服に着替え終わり鞄を持って一階へ駆け下りる。
「母さんなんで起こしてくれなかったんだよ!!!!……って居ない? ん、なんだこれ」
テーブルに紙が置いてあり、それを手に取ると何かが書いてある。
『遅刻するだろう要へ
ちゃんと母さんはあんたを起こしたけど、起きなかったから母さんはお父さんと一緒に仕事に行ってきます。美人の母より』
なんだよこれ……。ってこんなのゆっくり読んでる場合じゃなかった!!! 早くいつもの待ち合わせ場所に向かわなければ。そう思い立ったと同時に鍵を持ち玄関へ走る。
八時七分、いつもならもう合流して楽しく話しながら学校に向かっている時間だ。
が、しかし今日は違う、猛ダッシュ中なのだ。このまま走っても待ち合わせ場所に付くのは十分過ぎになる。あぁもう最悪だ。
一つ運が良かったといえば悠斗も忘れ物を家に一度取りに行っているということ。
きっと悠斗も待ち合わせ場所に付くのは十分近くだと思われる。
「はぁ…はぁ…はぁ…っ……はぁ」
ずっと走っているため呼吸が乱れる。
「あっ!!!!」
待ち合わせ場所にいつもの後ろ姿を発見する。
「悠斗……! っ、はぁ…はぁ。待たせちゃってごめん!!」
待たせてしまったという罪悪感で押しつぶされそうになりながら頭を下げる。
「いや、全然大丈夫! でも要が遅れてくるなんて珍しいな、どうしたんだ?」
悠斗は笑いながらも不思議そうに理由を聞く。こんなときでも笑って話してくれるこいつは本当にすごい。
「寝坊しちゃって……。待ってるなんて言ったのに俺の方が遅れるなんて酷いよな……はぁ」
「そうだったのか。気にするなよ、俺も遅くなってたんだし、お互い様ってことで!」
悠斗は優しい。遅れた俺を責めることもなく太陽のように眩しい笑顔で許してくれる。
「ふふ、ありがと悠斗。」
「おう。って急がないと遅刻だ! 行くぞ要!!」
そう言って、俺の手を引いて走り出した悠斗の一瞬の体温にすら俺の胸は音をたてる。
そう、俺はこの加藤悠斗という幼なじみに恋情を抱いている。
物心がついたころから好きになっていた。何度もこれは恋じゃないと自分に言い聞かせてきたが気付いたらこいつを目で追っている。
そんなことを繰り返してもう何年になるんだろうか……。気が付いたらもう俺もあいつも十七だ。
だからといって気持ちを伝えるつもりは全くない。
そんで、前を走っているこいつへの想いは一生心に秘めて生きていくと決めていた。
それにもし気持ちを伝えたら絶対に今の幼なじみという関係を失ってしまう。
だからこそ気持ちを伝えるなんてしてはいけないんだ。俺の気持ちは許されるものじゃない。そんなことを考えていると前を走っていた幼なじみが走りながら急に振り返った。
「要ー!ずっと黙ってるけどどうかしたのかー?」
ずっと悠斗のことを考えていたため思わず動揺してしまう。
「っ、……な、なんでもなーい! ってこんな会話するよりも…はぁっ……はぁ、急がないと間に合わないよ悠斗!」
怪しまれないように自然と話をそらす。体力が無いため息切れ混じりの返事になってしまったのが情けない。
「あ、やべ! そうだな! 急ぐぞ要!」
「うん!」
あぁ、好きだ。
俺は今の関係を壊したくない
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