幼馴染みの距離間

「月子」

 幼馴染みの月子の背に声をかける。腰まである黒髪を揺れた。

「木村くん」
「なんか怒ってる?」
「なんのこと」
「昨日から、急に俺のこと名字で呼ぶから」
「別に」

 下弦の月のように口の端が上がった。

「昨日、ユミから告白されてOKしたんでしょう?初彼女だねおめでとう。ユミ玄関で待ってるよ早く行ってあげなよ」

 早口で言い終えた月子の腕を掴む。

「あのさ」

 言い訳を。ずっと月子が好きなのに君はいつも誰かのもので、君を独り占めできないもどかしさからつい君の友達の告白を受けてしまったと、話す前に。

「私たち、幼馴染みだから」

 それは免罪符のような警告文。
 一定の距離を縮めることも離れることも、月子は許してくれそうにない。


2016.10.1 第26回 お題「月」
最初に思いついたのが「月に叢雲」でした。美しい物とか、ずっと眺めていたいものに邪魔が入るのは世の常、みたいな解釈。それと、月と地球の距離間を。


  
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