「けんしんこう、おしえてもらってもいいでしょうか?」
与六は書物を握り締め、謙信の部屋を訪ねた。
謙信は頷くと、膝を叩く。此処に座れという意味だ。
与六はしつれいしますと膝に座る。
「ここがわからないのです」
書物の項をめくり、小さな指で指差す。
その意味を謙信は丁寧に教えてやった。
「判ったか?」
「はい」
こくりと頷く。
「けんしんこう」
「なんだ」
「まだすわっていてもいいですか?」
謙信は返事の代わりに髪を撫でた。
与六はそれが座っていても良いという返事だと判り、嬉しそうに目を細めた。
しばらくすると、かぁっと与六の身体が熱くなり始めた。
眠くなってきたのだ。
「蒲団に入れ」
その言葉にあからさまに悄気た。
「けんしんこうのおひざはあたたかくて、きもちいいのです。ねないので、まだすわっていたらだめですか?」
くるりと振り返り、今にも泣き出しそうな顔を見せてきた与六に寝ろとは言えなかった。
我ながら与六には弱いと思いながらも、そのまま膝に座らせてやることにした。
眠らないと言っても、やはりまだ子供。直ぐにこっくりこっくりと眠り始めてしまった。
小さな身体を無防備に謙信に預けて、眠りについている与六を起こさないように抱き締める。既に敷かれていた蒲団に与六を抱き締めたまま入った。
与六の身体はあたたかい。そのあたたかさが謙信にも眠りを誘った。
「けんしんこう・・・」
与六が寝言で謙信の名を呼んだ。
指を差し出せば、強く握る。童というより、赤子のようだなと思った。自然と笑みが零れる。
額に口付けると、与六を胸に抱き、謙信も眠りに着いた。
終