「慶次はあたたかい!!」
兼続は、後ろからべったりと慶次に抱きついた。首に腕を回し、絡みつく。
「なんでだ?」
「さぁ、なんでだろうね〜」
「私は顔は熱いのに、身体は寒い!」
「酔ってるからだ」
慶次がいうように兼続は酔っていた。
兼続にしては珍しく、かなりの酒を飲んだ。そして、酔った。
何か考えたくないことでもあったのだろう。慶次は黙って兼続に付き合った。
「違う!外が冬だからだ!」
最早、言葉すらおかしい。
「ははは、そうだな」
慶次は笑った。
「うー」
兼続が突然唸り、慶次の肩に額をこすりつけてきた。
「どうしたんだい?」
慶次は手を伸ばし、兼続の頭を撫で、優しげな口調で訊いた。
「慶次はどうして、私に付き合ってくれる?」
この場でのことの他に、戦でのことも含まれているのだろう。
慶次は杯の酒を飲みながら、惚れてるからねぇとさらりと答えた。
「うー、うー」
兼続はばたばたと足をばたつかせた。
暴れたかと思えば静かになる。ふと、肩に冷たいものが落ちてきた。
兼続が泣き始めたのだと気付く。
「慶次が死ぬのはいやだ」
「あんたを残しては死ねないさ」
これかと慶次は思った。これが兼続を酔わせた原因かと。
ふっと笑って、杯を置くと、兼続を抱き寄せる。
「いやだ、いやだ」
ふぇぇと童みたいに泣き出してしまった兼続の背をぽんぽんと撫でながら、この姫様は参ったねと呟いた。
参ったと言っていても、内心ではそこまで思ってはいなかった。
慶次以外にはこんなことは言わない。慶次以外の前でこんなにも酔うこともない。それは慶次も知っていたので、それを受け止めてやる。
「兼続」
名を呼んで、口付けて、また名を呼んで。
「ずっと、傍にいる」
囁いて
「・・・慶次」
激しく抱く。
何もかも忘れ、己だけを感じられるように。深く、熱く。
火照り過ぎた身体を外の寒さで覚ましながら、すっかりと雪に埋もれた世界を見つめた。
横に寝ている兼続の髪を撫で、余計なものは全てこの雪が消してくれれば良いのにと思った。
終