「慶次殿、どうなされた?」
慶次の姿を見るなり、兼続はくすくすと笑った。それもそのはず、慶次は頭からすっぽりと熊を被っていた。
聞けば熊は子供の頃に捕ったもの。それの中を剥いで、皮だけにしたものを慶次は被っている。傍から見れば、熊に食われているようにも見えた。
「兼続殿にこれをやろうと思ってな」
寒いだろうと慶次は言う。空から今にも雪が降ってきそうな位に寒い。
確かに熊の毛皮はあたたかそうだった。慶次の顔も紅を差したように熱さで紅くなっている。
「手前には慶次殿がいますから、大丈夫ですよ」
そう笑うと、慶次の手に触れた。慶次の手から兼続の手へと熱が伝わる。
手を触れただけなのに、全身が熱くなったような気がした。
「それでは、いつも傍に居らんとな」
「そうですね」
にこりと笑いあい、心の中までも温かくなる。
慶次が居れば、どんなに寒い冬が来ても大丈夫だと思った。
「いつも手前の傍に居てください」
終