それでも愛しくて


「かっ…かは…う…っ」

限界超えるまで飲んで、吐いて、また飲んで

「慶次、抱いてくれないか」

酔って、俺に抱かれて
その繰り返し。

「慶次…」

腕の中で喘いで、この時だけ忘れて、
それであんた幸せかい?

「呼んでみなよ」

忘れられない相手の名をさ。耳元で囁いて、目を布で塞いで、背後から抱き締めて、そのままぶち込んで

「…与六」

幼名を呼ぶ。
それに過剰なまでに身体が反応した。

「その名を呼ぶな!呼んでいいのは…」

誰?

「与六…」

呼ぶと身体が震える。
思い出してるってことか。抱かれてることを。

「やぁ…いやだ…呼ぶな…呼ぶな…」

名を囁けば、それだけで達して中ひくつかせて
随分と愛でられてきたんだね、あんた。

はじめて俺を拒絶する言葉を叫ぶがやめなかった。
何度も呼ぶと、いやだいやだと泣き喚く。
その内、しゃくり上げはじめ、声も絶え絶えに名を呼び始めた。

「け…けん…しんこ…ぅ…」

そして、腰を動かし泣く。
何かが切れてしまったように、何度も違う男の名を呼ぶ兼続。
それでも惚れた心はどうにもならず、現実とは残酷なもんだなと悪態つく。

酷い男だろ。その相手はさ。
あんたに散々、愛だの義だの語って、こんな身体にしておきながら、自分はさっさと死んじまって。兵も民も何もかも捨てられないあんたは、この世に縛られて。しかも、俺にしかこうして話せる相手も居ない。
他人の前だと気丈なあんた見てると苦しいよ。

…俺もあんたから離れられないじゃねぇか

「は…あぁ…あ…」

せめて抱いてやるときくらい、忘れさせたらいいのかも知れないが、何時までも忘れられない相手を想われているのも癪に思ってしまう。
口ではいいよと言いながら。

愛ってもんは面倒なもんだな。

「…け…」

兼続がひゅっと呼吸をした。

「…い…じ」

そして、吐く息を一緒に、俺の名を呼んだ。
我に返って兼続を見ると、涙で濡れに濡れた顔をこちらに向けていた。思わず、動きを止める。
繋がっていた部分を抜いて、目の前に正座して、頭を垂れて

「…すまない」

そう言った。
忘れるとか、お前だけを愛するようにするとか、別れようとかは言わない。出来ないことは言わない。
ただ、不器用に非礼を詫びた。
そして、兼続は手を伸ばし、俺の手に触れた。
兼続はやけに身体に触れて、人と接してくる。それが人と接する一番の策のように。心と触れ合うためにはそうしなくてはならないと言うように。
今も怖いくせに、震える手で触れてきた。

此処で拒絶してやったら、あんたはどうすんのかね?
出来もしないのに、そんなことを思ってみた。

濡れた布を剥ぎ取ると、まだ涙は止まることなく溢れてくる。
瞬きをするたびに長い睫からはたはたと零れる涙は、葉に溜まった露が朝日を浴びて輝き落ちたように美しく、胸締め付けた。
堪らなくなって、キツく抱き締めて、悪いと言えば頭を振る。

互いに依存しあって、傷つけて、傷ついてそれでも、愛しくて、傍に居たくて

「どうしようもないね、俺もあんたも」

そう言うと、兼続は笑った。

幾つになってももがいて、苦しんで、傍から見てれば見苦しいもんだろうな。
それでも、あんたをこの腕に抱き締めていたい。








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後記

兼続は慶次にだけ、弱い部分を見せてたらいいなと思った話です。慶次は受け止めてくれそうだけど、むず痒くなるとこもあってつい、乱暴にしてしまったとかそんな風もありかなと思ってみました。そして、また幼名を!!

どうでもいいのですが、吐いた後にキス出来るのは加持さんと慶次だけだと思っています。





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