慶次は指の中の小さな一輪の野菊を見つめた。
小さいと云えど、その匂いは馨しく、咲く姿は可愛らしい。
慶次の顔が思わず綻ぶ。
ちらっと助右衛門に目を移した。
助右衛門も貰ったばかりの野菊を愛でている。やはり、助右衛門の顔も綻んでいた。
「おまつ様が菊の花なら、おまえは何をくれる?」
慶次は徐にそう聞いた。
助右衛門は慶次を見ると、首を捻った。この野菊以上の礼などないと思ったからだ。
きっと、この先慶次に助けられることもあるだろう。
その時、何をあげたら良いのかが浮かばない。
「うーん・・・・」
助右衛門は唸った。
また野菊に目を落とす。やはり、何も思い浮かばない。
「これでいいよ」
ちゅっと助右衛門の頬に慶次が口付けした。
咄嗟のことに状況がつかめないまま、助右衛門は顔を上げた。
にっこりと笑った慶次の顔を見、やっと状況を理解した。
「け、慶次!!」
助右衛門の顔が、口付けたそこから真っ赤に染まっていく。
「はははは、真っ赤だぞ!助右衛門!!」
そうからかう慶次に殴ろうと拳を振りかざしたが、ひらりと逃げられてしまった。
遠くから、そうしろよーと慶次は叫び、笑いながら消えてしまった。
「む・・・」
助右衛門は口を尖らせた。口付けられたところが熱い。
「礼か・・・・」
一言呟くと、慶次の消えていった方向を見つめた。
終