明月


時は流れに流れ、戦国時代末期となった。
出羽国米沢の堂森の地へと移り住んだ兼続と慶次は、過ぎし時を語り合い静かに暮らしていた。
この日もまた、月と語りを肴に酒を飲み合っていた。
慶次と出逢い、もう何年もの時が経った。出逢ったその年月は、桜が散るよりも短いもののような気もするし、種だった木が果実を実らせるまでに成長するより長いもののように感じた。
その年月の間、間には濃い出来事ばかりであった。何もかも忘れられない。

慶次は月から兼続へと顔を向けた。
兼続は出逢ったあの日から、年こそはとったが、それに反して美しさが増したように思えた。
米沢に移り住んでからはより一層、そう感じた。
酒でほんのりと染まった頬を月が照らす。
兼続も月から慶次へと顔を向けると、静かに笑った。

二人の関係は男女のそれとは違う。
友だからこそ、兼続は慶次に抱かれ、慶次は兼続を抱いた。
愛の言葉は囁きあうことなどない。愛や関係を確かめることなどもない。
ただ、抱かれたいから抱かれ、抱きたいから抱いた。
大抵、慶次が抱きたいと思った時は兼続も抱かれたいと思っていた。二人は心の底から繋がり合っていた。

ことっと杯を置くと、兼続は慶次へ身を近づけた。
目と目を合わせると、ふんわりと微笑む。
それを見た慶次も同じく笑うと、兼続をその場へと押し倒した。
口付けを交わしながら、着物の上から身体の線を確かめるように触れていく。
帯を解くと、するすると下帯も抜き去った。
物へと触れると、それを手で愛撫していく。ほんの少し触っただけで熱帯びる雄々しいそれは、年をとっても変わらない。
慶次は身体を動かすと、そこへも口付けた。
唾液をたくさん含ませ、じゅるじゅると厭らしい音を立てながら舐められているのを見ながら、兼続は慶次の頭を撫でた。
毛の無いそこはつるつるとしていて、気持ち良い。

「…気持ち良い」

兼続がそう言えば、慶次はぎろっと目を剥いた。

「どちらがだ」

「どちらも」

悪げも無く、にこりと笑われたのなら慶次も怒ることすら出来ない。
怒る代わりに舐めるのを止めた。
少し乱暴に兼続の着衣を脱がせると、己も脱ぎ捨てた。米沢の風が身体を撫でる。やはり、寒さを感じた。

「少し肌寒いか?」

「直ぐに熱くなるであろう」

また、にこり。
早く抱いてくださいと急かされている気分になり、半ば強引に兼続の中へと押し込んだ。
ふっと小さい吐息が零れ、きゅうっと中が締まった。
強引なのにも関わらず、すんなりと受け入れる兼続の身体。白く肌理の細かい肌を舐めるように触っていく。
何度も抱いた兼続の身体は、何処をどう責められるのが好きか熟知している。それでも兼続の身体を飽きたことなどなかった。何度抱いても、新たな感動を生ませてきた。

根まで押し込むと、ふぅっと慶次は溜息を吐いた。
中はきゅうきゅうと慶次のを締め付け、それでいてとろとろと潤んでいた。
熱を暫く楽しんだ後、ゆっくりと腰を動かした。

「あっ…は…あ……」

ぬるい快感に顔を顰めながら、兼続は小さくよがった。
奥をぐいぐいと責めたかと思えば、入り口から奥へと一気に責める。そして、入り口を責め、角度を変え襞を責める。まるで正反対な責め方をし、兼続を翻弄していく。

「……」

兼続は感じると声すら出さなくなる。
とろんと潤んだ瞳をし、揺さぶられるまま。呼吸することすら忘れてしまうことすらある。慶次を感じるのに、己の吐息ですら邪魔だと思うからだ。
慶次は自らの指を舐めさせ、呼吸するように促した。
口の端より垂れる唾液を拭おうともせずに、子猫が水を舐めるように慶次の指を舐めた。
荒い呼吸が指の間から落ちる。

ぐっぐっと腰を押し付けながら、慶次は兼続の物に触れた。
先端を執拗に責める。指の腹で擦り、爪で刺激する。
はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返しながら、兼続は慶次を見た。目は潤み、涙が零れそうになっていた。瞳は水面に浮かぶ、月のように美しかった。最初に抱いたときとなんら変わらない。

「っ…」

内太腿にぎゅっと力が込められたかと思えば、慶次の触れているそれから白い液が吐き出された。とろりとろりと零れ、慶次の指を伝って落ちる。
中は吐き出されたと同時にびくびくと伸縮を始め、慶次の物を刺激した。
白い液で濡れた手を慶次はぺろりと舐め、兼続の顔を見た。
兼続は慶次の行為に顔を染めている。

「俺の頭と俺の一物、どちらが気持ち良い?」

慶次はおもむろにそんなことを訊いた。先ほどのことを気にしているらしい。
くっと笑ってしまいそうなのを兼続は堪えた。

「…ひょっとこ斎殿が気持ち良い」

「答えにはなっておらんではないか」

慶次は、剃った頭を撫でた。兼続は、はははと笑った。

「しっかりと答えるまで、責めてやろうか」

意地悪く慶次が笑う。

「お受けしましょう」

微笑を兼続は浮かべた。

ふと、慶次は空を見た。釣られて兼続も空へと目を向ける。
空の月はいつの間にやら屋敷の影に隠れてしまっていた。

「月も我らの情事に恥ずかしがって隠れてしまったわ」

「それでは、慶次殿を見ているのは手前だけだと」

慶次の言葉に兼続は、ぽつりと言葉を零した。

「そう。兼続殿を見ているのは、わしだけだという事になるな」

言葉の後に兼続の身体がびくんと大きく震えた。慶次の物が中で暴れたからだ。

「相変わらず…」

困ったように兼続は笑う。

「兼続殿もな」

吐き出したのにも関わらず、猛っているそれを慶次は触った。

「あっ…」

やけに艶やかな声が零れてしまい、兼続は恥ずかしさに口を噤む。慶次は莫迦に嬉しそうに微笑んだ。


二人を邪魔するものは何も無かった。月すらも。
重なり合う二人の影は闇に溶けて見えなくなった。










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後記
義風の酒語り一話の兼続があまりにも良すぎて書いてみました。










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