太陽が真上へと照りつけ始めた頃、兼続は慶次の屋敷を訪ねた。
慶次は兼続を見ただけで判った。
「そうか…」
そう呟くとぽりぽりと頭を掻いた。
言葉はいらなかった。
深く頭を下げると、兼続は馬に跨り屋敷へと帰っていった。
「兼続殿はなんだったんです?」
捨丸には意味が判らなかったようで、そう訊ねた。
慶次は煙管の煙を吐くと、思い出したんだよと云った。
「えぇぇ!?」
捨丸は大げさなまでに驚いた。
「景勝殿には適わんな」
煙を吐きながら、誰に聞かせるでもなくそう慶次は呟いた。
数日後、一人の男が捕まった。
それは兼続を陥れた忍だった。
「この男か?」
景勝が訊ねる。
「はい、間違いありません」
兼続はそう云った。
景勝は家臣に任せるのでは無く、己が刀を振った。自ら制裁を喰らわせてやりたかったのだろう。
男の首が飛び、地面へ転がった。
兼続は目を逸らすことなく、それを見た。
納得いかない出来事だった。
秀吉の仕業ではないかと疑ったが、秀吉ならば兼続に死んで欲しくはなかったはずだ。
目の前で死に絶える男は、己の配下を殺させてでも、兼続を操り、上杉家を滅ぼしたかったと云うのか。
男の信念にぞくりと体が震えた。
景勝が兼続の肩に手を置いた。
「行くぞ」
その言葉にはいと返事をすると、背を向け、歩みを進めた。
兼続は、一度も振り返ることは無かった。
終
(言い訳タイム)