「ッ…あぁ…あッ…ふ…っ」

月明かりの部屋の中、兼続の喘ぎが響く。
背後から責め立てられ、体をくねらせながら、甘ったるい吐息を繰り返し吐く。
何度となく、中で果てようとも朽ちないそれは、今までに味わったことも無い快感へと誘う。

抱いている相手が、兼続の背の傷に口付けを落とす。
それだけで兼続は達した。
体が痺れ、震える。
あの日から、毎晩抱かれるようになっていた兼続は、完全に相手に溺れていた。
確か、誰かの許へと帰らなければならなかったはずだと、他にこうして抱く相手が居たはずだと、時折抱かれながら思い出すのだが、名が出てこなかった。
今、抱いている男の存在が兼続の中で大きくなり過ぎていた。

傷が癒えるまで、何度も何度も兼続は抱かれた。



傷が癒えた頃、目と耳を塞いでいたものが外された。

「兼続」

目の前の男がそう呼ぶ。
久しく音を聞いていなかったせいか、声が頭に響いてくるようだった。

「それが私の名でしょうか…」

兼続は、闇の中に長く居すぎた為に己の名すら忘れていた。
過去の記憶が全く無い。
覚えているのは抱かれていた時の熱と、闇だけ。
男はそうだと云った。

兼続は忍びの辛く厳しい修行をさせられた。
それでも、男の為に兼続はどんなものでも耐えた。
最後に今から襲ってくる相手を全て倒せと云われ、それに従った。

「この者達は誰なのですか?」

血の海の中、兼続は問う。
握った刀だけでなく、体にも血を浴びていた。
周りには夥しいまでの屍の数が散乱している。

「配下だった者だ」

一言、そう告げた。
兼続はそれに顔色一つ変えなかった。

その日の晩、男は景勝を殺せと兼続に命を下した。
そして、続ける。失敗したならば、死ねと。
兼続はにこりと笑い、判りましたと答えた。
失敗したとしても、今の兼続には死に対する恐怖は無かった。この男の為に景勝を殺そうと思う心だけ。
数ヶ月で起こった出来事により、兼続はすっかり変えられてしまった。

こうして、兼続は景勝を殺しに向かったのだった。





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