どの位の日が過ぎたのだろうか。
兼続は目を覚ました。死んではいなかったが、状況は変わっていなかった。
違っていたのは、手が自由になっていることと手当てをされ、布団に寝かされていたこと。
動くと背が痛む。体が熱くて、熱くて仕方ない。背の傷の所為で熱が出たらしい。
喉も焼けるように痛む。苦しく、容易に呼吸することも難しい。肩で荒く呼吸を繰り返した。

暫くし、また何者かが現れる気配がした。
歩調はこの間の相手と似ていた。兼続は警戒した。
相手は水を飲ませてくれようとしたが、力が入らず上手く飲むことが出来ない。すると、相手は兼続の体を起こし、口移しで水を飲ませてきた。
温かい唇に吐き気を覚えた。それを拒みたかったが、此処で死ぬわけにはいかない。辛うじて動く喉で、それを飲んだ。
体に触れている相手を蹴り飛ばしてやりたかった。しかし、熱で体を動かすのもままならず、僅かに動けば背も痛む。
唇を強く噛み締めた。

掴まり、薬を飲まされ、景勝の許にすら戻れず、敵に看病されている。何と無様だろうか。
何も出来ない己を咎める。

その後、熱により出た汗を拭き、傷の手当てをされた。
常に警戒していたが、特に何をされるでもなかった。
手当てが終われば、その者は何処かへと消えた。兼続は、また一人になる。
途端に寒さが兼続を襲った。熱い筈なのに、寒くて、寒くてどうしようもない。
熱で魘されながらも、兼続は景勝の名を呼んだ。
返事は無い。
当たり前だが、酷く悲しかった。
震える体を自分で抱き締めると、気を失うように眠りについた。


水や食料を与えられ、傷の手当てをされる。
そんなことが何日も、何ヶ月も続いた。どの位の時が経ったのか兼続には判らない。
何もない闇が怖いと思うようになった。半日以上、兼続は一人だった。
どうされるのか判らない恐怖に怯えた。
普段ならば、まだ冷静を保っていられたかも知れなかったが、何も見えない、何も聞こえないことや傷の痛みがより一層、兼続を陥れた。
その反面、己に水と食料をくれ、手当てしてくれる相手に逢えるのが、唯一の支えになっていった。
この場から助けてはくれない。
だが、人の温もりに飢え始めていた兼続には、その相手の存在が大きくなっている。
景勝の名を呼ぶこともめっきり減った。

兼続の中の思い出が、徐々に失われつつあった。

この日、手当てが終わった後、兼続は相手に告げた。
行かないでくれませんかと。
相手が自分を傷つけた相手だと云う考えは、今の兼続には微塵も無かった。
ただ、一人が怖かった。
温かな熱が欲しいと思った。

何も聞こえない。
相手はどう思ったのかとだろうかと不安になり、体が震えた。
この方は二度と来なくなり、闇に一人になるのだろうか。
どくん、どくんと心の臓が波打つ。
それだけは嫌だった。

「…行かないでください」

再び言葉にした。
聞こえはしないが、声も震えているだろうと思った。

震える手に温かな手が添えられた。
そして、口付けされる。
その熱を貪るように、兼続は唇を吸った。

そのまま、相手が望むがままに抱かれた。
気を失うまで、何度も…何度も相手の温もりを求めた。


兼続が堕ちていくのに、大した時間はかからなかった。





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