兼続は暗い場所に居た。
どうしてこうなってしまったのか、皆目検討がつかない。
馬に乗り、聚楽第へと向かっていた筈が、気付けば此処に居た。

声を出そうとしたが、声が出なかった。何度も声を出そうとするが、やはり出ない。
声が出ないのではなく、耳を塞がれているのだと気付くのに時間が掛かった。何も聞こえないので、口にした言葉が耳に届かなかったのだ。
暫く時間が経てば、闇に目が慣れる筈なのだが、変わらず闇のまま。
目も何かで塞がられているらしい。

兼続は、己の置かれた状況をじっくりと知る必要があった。
手を動かすが、動かない。手首を何かで縛られているようだった。時折、ちくりと痛むので、それが縄だと判った。
足はとくに縛られてはいなかったが、体全体が痺れていて動かし難い。薬を盛られているようだ。

閉じ込められている部屋はそんなにも広い場所ではないだろうが、異様なまでに寒かった。
寒さはそれなりに慣れていると思っていた。だが、そこはまるで雪の中にいるような寒さだった。体が震えた。
体をなるべく小さく丸め、熱を逃がさないようにした。

周りの気配を探る。
誰も居ないようだった。
居るとすれば、忍びか…。兼続は唸った。
流石に、忍びの気配までは探れない。

己をどうするつもりなのだろうかと兼続は考えた。
相手がこの状況に持っていった意味が理解出来なかった。
こうして生かしていたのでは、何時か足が付く可能性がある。それでも、殺さず生かしているということは、何か意図があるのだろう。

どうなるにしても、己は生きて景勝の許へと帰らねばならない。
そのことだけが、今の兼続を支えている。
何時までこうされているのかとは考えないことにした。


三日間、誰も兼続の前には現れなかった。
寒さや空腹、喉の渇き、それらに耐えながらも、神経を尖らせていると云うのは、より一層兼続を酷く疲労させた。
体の痺れは多少和らいではいたが、まだ動かし難い。手に力を込めるが、縄が鈍く食い込むだけだった。これでは、逃げることすら出来ないだろう。
兼続は闇の中、ひたすら耐えた。

ぎしっと、床が軋む感覚がした。何者かが、近付いてくる。
兼続は体を強張らせた。
軋む床の感覚から男だろう。果たして味方なのか、敵なのか。
その者が目の前まで来た。
兼続は男の行動を待った。
背に男が腕を回した。体を支えてくれるつもりらしい。
その手は酷く温かく、久々の温もりに兼続は安堵の溜息を零した。
唇に何か硬いものが当たった。そして、それから冷たいものが流れ、唇を濡らす。
水だった。
掬い取れずに滴った水が服と肌を濡らしていく。
喉が渇いていた兼続は与えられるがまま、その水で体を潤した。

敵ではないのだと気を許した瞬間だった。兼続の背に熱が走った。
血の匂いが鼻に届く。
そこで己が斬られたのだと気付く。
何故?
兼続には判らなかった。相手は現実から地獄へと落とす様でも見たかったのだろうか。
がはっと、兼続は口から血を吐いた。
体を支えることすら出来なくなり、どっと、その場に倒れこんだ。
また、手が支える。払い除けたかったが、それすらままならない。
背が熱い。痛いと云うより焼けるように熱かった。血を吐いた喉も同様。
気を許してしまった愚かさと、景勝の許へは戻れない無念さが兼続を襲う。
そのまま、腕に抱かれ兼続は気を失った。





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