「ぐっ…」

兼続は畳の上に倒れこんだ。
その前には政宗の姿。
政宗は倒れた兼続の上に馬乗りになった。兼続は即座に顔を掴んだ。

「まだ、諦めぬのか!」
「わしは諦めぬわ!」

顔を掴んでいた手を退けると、その手を握った。押し合いの合戦が始まる。

「口吸いなど、貴様にさせるわけがなかろう!」
「させよ!」
「どうせ、孫市とからかっているのだろ?」
「違うと何度言ったら解るのじゃ、馬鹿め!!」

ぐぐぐと押し合う二人の力。兼続は加減しているわけではなかったが、互角のようだった。

「貴様が私を好きなど有り得ない!」
「何故にそこまで言い切れる!わしは好いておると言っておるじゃろ!」
「その態度が嘘くさい!」
「なら、どうしたら良い!!」
「知らぬ!痛い!離せ!!」

兼続の言葉に、ぱっと手を離した。
押し合いをした兼続は疲れたのか、荒く呼吸を繰り返した。政宗は呼吸一つ乱れていない。
馬乗りになったまま、兼続を見据えた。

「信じてもらえぬというのも、悲しいものじゃな…」

ふ、と政宗は溜息を吐いた。
その哀愁漂う姿に、兼続の心が鳴った。そして、痛む。

「政宗…本当に…」
「だから、言っておる」
「………」

一拍置くと、兼続は横の畳へと目線を落とした。

「私も好いてはいるよ…だが、恋愛の感情とは違う…」
「そのくらい、解るわ」
「……そうか」

解ると言われ、傷ついた己が居た。

「ただ、触れたいだけじゃ。どうせ…一度だけになるであろう」

ずきっと痛んだ。
無意識に政宗に手を伸ばした。その手を掴むと、己の頬に触れさせた。
その時、政宗の顔に視線を囚われた。
見たこともない微笑を政宗が浮かべたからだ。

「なんじゃ…?」

すぐさま、いつもの様な顔に戻ってしまったが、確かに政宗は兼続に触れた瞬間、微笑していた。
何処かで見た、慈しむ眼。相手を愛しいと想っている微笑に兼続の心が高鳴った。

兼続は政宗の手を引いていた。気付けば政宗は腕の中だった。
視線が交差し、政宗が顔を近づけた。
無意識に眸を閉じた。

「兼続…」

唇に触れそうになる直前、政宗が名を呼んだ。
そして、唇が触れ合う。
微かに震えている政宗の唇は、柔らかく、とてもあたたかかった。

(そんな風に愛しく名を呼ばないでくれ…私にまで感情が移ってしまう)









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後記

読み返してみたら切なかったですね。政宗→兼続がいいなと思って書いた話です。







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