「慶次?」

兼続は見ていた書物をはたりと止めた。
隣で横になっている慶次が何もせず、己に視線を送っていたからだ。

「いや、何も?」
「では、何故私をその様に見る?」
「ただ、見たいだけさ」

兼続は首を傾げた。
ふぅんと呟くと、また書物に目を戻した。

数頁捲り、また兼続は手を止めた。
慶次が変わらず見ているからだ。

「慶次、なんだ?気になって仕方ない」

ただでさえ、視線には敏感。とてもではないが、書物を続けることが出来ない。

「話相手になって欲しいのか?」
「いや?」
「…何か用事でも言いつけてやろうか」
「はっはー、それじゃあ、あんたを見る事が出来なくなっちまう」
「本当に私を見ていたいだけなのか」
「そうだねえ」
「何も面白いものでもないだろう」

ふぅと溜息吐いて、書物を閉じた。
文机の上に置くと、慶次の側へと寄った。

「さぁ、好きに見るがいい」

そう言って、両手を広げる。
慶次は、目の前の畳をぽんぽんと叩いた。此処に横になりなということだ。

従いごろりと横になった。
天井を見れば、慶次が覗く。

「慶次にそんなにも興味を持たせるものはなんだ」
「兼続」
「…私の何に興味を持っているという」
「なんだろうねえ」

のんびりとした口調で話すと、慶次は兼続に触れた。
髪に触れて、頬に触れる。
兼続はされるがまま、動かない。

「あんたを見ていたいんだよ、いつまでも」
「口説き文句にしては、捻りがないな」
「もっと色気のある言葉を言って欲しいかい?」

ふにふにと兼続の唇に太い指が触れた。
感触を楽しむように、何度もそこを指で弄った。

「いや、結構だ」
「つれないねえ」

慶次が兼続の顔に顔を近づけた。
さらりと髪が肩から流れ、兼続の頬を撫でた。

影で暗くなる。顔が近づく。
兼続は避けることなく、慶次を見据えた。
唇に唇が触れそうになると、兼続は眸を閉じた。
あたたかな熱が触れる。だが、触れたのは唇ではなく、頬。

「…慶次」
「なんだ、期待してたのか?」
「ぐっ」

兼続は口を噤んだ。
それを見、慶次はからからと笑った。
あまりにも心地良い笑い方なので、兼続も怒るに怒れなくなった。

「冗談だよ」

そう言うと、慶次は唇に口付けた。
軽く口付けて、名残惜しそうにゆっくりと唇を離す。

「あんたは可愛いね」
「失礼だな」
「ははは、悪ぃ悪ぃ」
「本当に反省しているのか?」
「当たり前さ」
「だったら…もう一度口付けしてくれ」
「そんなのでいいのかい?」
「良い」

まさかの答えに慶次は笑うと、兼続に口付けた。

「簡単な男だと思うなよ?慶次だからこそ許したまでだ」
「可愛いと言われるのはそんなにも嫌なもんかね」
「嫌だ。女子に言う言葉ではないか」
「まぁ、そう言ったらそうかも知れないが」
「だろう?」

得意気に兼続は言う。
その姿にまた笑いたくなった。

「あんたと居ると笑ってばかりだ」
「何より」

手を伸ばせば絡みつくように兼続が身体を寄せた。
慶次はその腰に腕を回す。
兼続が慶次の顔を覗いた。

「もう見飽きたか?」
「まだだねえ。あんたは口付けは足りたのかい?」
「足りたと?」
「はいはい」

慶次は強く抱き寄せると、兼続に口付けを交わした。
終わるたびに兼続はもう一度とせがんだ。
二人は何度も長い口付けを交わし合った。








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後記

いつもとは違う兼続を意識して書いたつもりです。








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