三成と兼続の二人は雑踏の中に居た。
「暑い…」
人込みと暑さの嫌いな三成は、兼続に何度も愚痴の言葉を口にした。
兼続が出掛けるからとついてきたのは、自分だというのに。
「何処かに入るか?」
兼続は文句一つ言わず、三成にそう告げた。
欲しいものが手に入り、ご機嫌な様子だった。
「紅茶が飲みたい」
「マリアージュ?それともタクシーでハイアットまで行くのも良いかな…」
「兼続の作った、ロイヤルミルクティー。アイスでな」
「ははは、そうか。ならば早く帰ろう」
タクシーを呼ぶと、二人はそれに乗り込む。人々が歩く雑踏を三成はぼんやり眺めた。
あまり汗のかかない体質といえど、じんわりと汗が流れる。タクシーの中のクーラーが心地良かった。
兼続の部屋に着くと、当たり前のようにシャワーを浴びた。
風呂場から出ると当たり前のように服が置いてある。勿論、三成の服が。
兼続も浴びると、三成の為に紅茶と軽い食事の用意を始める。
鍋に紅茶の葉を入れた。丸い形に丸められたニルギリを多めに入れ、水を入れた。
そして、鍋に火をかける。
「この間、教えてもらった方法で作ったのだが、いまいち美味くなかった」
椅子を反対に座りながら、三成は兼続を見た。
兼続は一度、三成の方向を向くと、微笑した。
「愛が足りないのであろう」
そして、ぱちんとウインクをする。
「ふん…」
照れくさそうにする三成を見ると、また鍋に目を戻した。
「私は作るときに魔法をかけているのだよ」
くつくつと小さな泡が立ち、紅茶の葉の色が水に溶ける。
色が十分というくらいになると、兼続は火を止めた。
「美味しくなりますように、飲んだ人が幸せになりますように、とな」
牛乳を入れ、たっぷりの砂糖を入れる。
「俺以外に作ったことがあるのか?」
「そう不貞腐れるな。三成以外には作ったことはないよ」
くすくすと笑うと、たくさんの氷の入ったグラスに注いだ。
出来たロイヤルミルクティーを三成に渡すと、屈んで頬にキスを落とす。
「愛のたくさん詰まった、幸せロイヤルミルクティーお待たせしました〜」
「恥ずかしい奴だ」
受け取る三成の顔は、そう言いながらも幸せそうだった。
一口飲むと、甘さが広がる。それと共に幸せな気持ちも。
本当に魔法でもかかっているのではないかと感じた。
「美味しい?」
「自分で確かめろ」
ぐいっと兼続の胸倉を引くと、口移しでロイヤルミルクティーを飲ませた。
唇を離すと、兼続はぺろりと唇を舐めた。
「幸せの味がする」
「ははは、幸せは砂糖の味か?」
「甘い味なのは確かだな」
「馬鹿か」
こつんと額を合わせると、くすりと笑う。
甘い甘いロイヤルミルクティーは、確かに幸せの味だと三成は思った。
終