幸村は、兼続の居室に居た。
兼続に薦められた書物を読んでいたのだが、とある頁まで行き、ぱたんと閉じた。
「幸村?」
兼続が幸村の顔を見れば、真っ赤に染まっていた。
どうしたのだろうかと兼続は顔を覗きこむ。
「わっ!」
その行動に大げさなまでに驚くと、幸村は仰け反り倒れた。
「どうした?」
「も、申し訳…ありません」
幸村は兼続の一部分を一瞥すると、益々赤面した。そして、兼続から眸を逸らした。
ありありと解るまで染まった頬は、鬼灯のように赤い。
「そ、その…書に…」
「ん?」
幸村が書物を渡してきたので、頁を捲った。
兼続には、何処で幸村がそうなったのかが検討つかない。
「口吸いの…」
「あぁ」
幸村に渡したのは恋愛についての書物だった。
堅物の幸村に、少しは恋のことを知った方が良いだろうとそうしたまなのだが、此処までの反応をされるとは思ってもみない。兼続は己の顎を撫でた。
(此処まで恋愛に疎いとは…)
ぼんやりと思考を巡らせていると、幸村と視線がはたりと出逢った。
焦点をしっかりと幸村に絞ると、幸村は視線を再び逸らした。
「なんだ?言いたいことがあるならば、言ってくれ」
兼続の言葉に幸村は迷っているようだった。
少し考え、兼続に言葉を伝えた。
「兼続殿…兼続殿の唇も、その…柔らかく、気持ち良いものなのですか?」
幸村が見ていた先は、兼続の唇であった。
「どうだろうな…」
兼続はふにふにと己の唇を指で突付いた。
柔らかいとは思うが、気持ち良いのかどうかまでは解らない。
「い、嫌ではなかったら…私と…あの…や、やはりなんでもな」
幸村の言葉は途中で途切れた。兼続に唇を塞がられたからである。
軽く口を付けると、兼続は離した。
「どうだ?気持ち良いものか?」
「わ、解りませんでした…。軽くだったのと、突然だったので…」
「そうか…」
兼続は幸村の手をきゅうと握ると、再び口付けた。
今度はゆっくりと。
眸を開けていると兼続の眸と絡み合う。その恥ずかしさ、近さに強く眸を閉じた。
一度目よりも長く二人は口付けあった。
「今度は解っただろう」
「はい…柔らかくて、気持ち良いものなのですね」
先程に増して、幸村の顔が赤い。鬼灯よりも。
幸村は己の唇を指先で撫でた。まだ残る痺れと熱の余韻を感じた。
「私もこんなにも気持ち良いものとは思わなかった」
うむと頷いて、兼続は幸村に寄った。
「もう一度しても構わぬだろうか?」
幸村は頷いた。
二度目より長く口付けると、呼吸が苦しくなった。唇を離して、ふぅと二人は息を吐く。
笑って、難しいものだなと兼続は囁く。
「そうですね」
幸村もそれに笑って、今度は軽く口付けた。
終