「ゆき…むら…」
切なげに小さく兼続は名を呼んだ。
首筋を伝い、白い液体が流れ落ちる。胸の間を流れ、脚へとたどり着くその液体に兼続は小さく震えた。
「シーツが汚れてしまう…」
脚から伝い流れてしまった液体がベッドのシーツにシミを作る。
「こんなときにも、そんな心配ですか?」
くすりと可笑しくて仕方ないように幸村が笑った。
兼続は後ろ手に縛られていた。
服すら何も身に纏っていない。ベッドの上でそうされていた。
身体を濡らす白いアイス。冷たく兼続の身体を冷やした。
「溶けてしまいましたね、もう一本食べますか?」
兼続をそのままに幸村は冷凍庫から棒のついたアイスを持ってきた。
袋を破くと、先端を兼続の唇につけた。
ひんやりとした感触が刺す。押し付けられ、ゆるゆると唇を開いた。
「ん、くぅ…」
喉の奥まで押し入られ、思わずえづきそうになった。
ふっくらとした唇を含みきれなかった白い液体が滴る。兼続の身体を濡らしながら、落ちていく。
「っ、…んっ」
なるべく流さないように、舌を使いそれを舐め取った。
だが、全ては拭えず零れる。
身体の線に沿って、白い道が出来た。その道を幸村は指先で辿った。
ぽたぽたと唇から流れていくアイスを顎から幸村は舌で拭う。兼続が咥えている棒に舌を這わせながら、アイスを消化する。
全てなくなったアイスの棒を抜き取ると、幸村はにこりと微笑を浮かべた。
「指が汚れてしまいました…」
アイスでベタベタになった幸村の指。幸村はそれを指先で擦り合わせると、兼続の前に差し出した。
「舐めてください」
兼続は言葉に一度、強く唇を噛み締めると、唇を開いた。
ゆっくりと指を飲み込んでいく。
窪ませた舌に指を乗せ、引きながら指を濡らす。根元からそうすると、舌先で舌を押し付けるように舐めた。
一つの指が終わると、また一つへと続ける。
透明の唾液が纏わりついていく。
その様子を幸村は何も言わずに見つめた。
その視線が突き刺さるのを感じながらも、兼続は最後の指まで舐め尽くした。
「…ふ、…」
全ての指を舐め終え、兼続は小さく息吐いた。
自分の唾液で湿った指を見つめる。
ふるっと身体を揺らした。
「どうしたのですか?」
それに気付いた幸村はすぐさま訊ねた。
兼続の身体がどうして震えたなど理由も知っているというのに。
「……」
兼続は何も言わない。ただ、小さく身体を震わせているだけだ。
「兼続殿…」
優しいのに何処か押し付けるような兼続の名の紡ぎ方。
何度こう名を呼ばれただろうか。
先を知っている分、身体の震えは止まらず、余計に強くなる。
恐怖ではない。
悦びでだ。
熱で身体が火照った。
縛られた手を動かした。縄が食い込む。
痛みすら甘く感じる。
「幸村…」
切なくそれでいて愛しく名を呼んだ。
恋なのだろうか。愛なのだろうか。
それとも、ただの同情なのだろうか。
どちらにしても、幸村から離れるつもりはなかった。
突き放しでもしない限り。
(私が幸村をこんなにしてしまったのだから)
微笑する幸村。その表情に、兼続は息苦しさをおぼえた。
「抱いて欲しいのですか?」
幸村がそっと耳元で囁いた。
その声にぞくっと身体が地から湧き上がるかのように震えが駆け抜ける。
こくりと解るか解らないかくらいの大きさで頷いた。
「駄目ですよ、口で言わないと」
静かに言ってはいるが命令だ。
息苦しく、ふっと小さな呼吸をした。
「だ、抱いて…欲しい…」
そう言ってもまだ幸村は眼で続きをと告げる。
「私は幸村に抱かれたい…」
言葉を聞くなり、幸村は小さく笑った。
「年下の、しかも男にそんなことを言って、そんなにも自分の性欲を解消したいのでしょうか」
好きだからという言葉は言わない。
言葉を告げながら、幸村は一枚一枚と脱いでいく。
幸村の逞しい身体に畏れに近い考えが過ぎる。知りつつも狼狽したくなった。
「ここまでこんなに腫らして…」
「く…ぅ…」
白い液体で濡れた胸の突起を指先でぐっと摘まれた。
痛みを伴いながらも、兼続をはしたないくらいに感じさせる。
「いけない方だ」
全て脱ぎ取ると、兼続の前に自分のものを差し出した。
「咥えてください」
先程咥えたアイスのように、徐々に口に含んだ。歯を立てないように、先端に舌を這わせると、それは口内で膨張していく。
柔らかいものが徐々に硬さを増していく、その感触を愉しむように舌を這わせた。
ずるずると唾液が頬を伝って落ちるようになった頃、幸村はもういいですよと兼続の頬を撫でた。それは優しいのに、幸村の心の内は解らない。
問うことが出来ない。私が好きなのかどうかと。
突き放しでもしない限り、傍にいるとは思っているものの、突き放されるのは怖い。
縄が解かれ、ベッドに横たわれせられ、横にあったローションを捲くように身体に零される。身体を伝い、アイスと絡み合い、脚からその先へと滴る。
脚と脚の間に流れるローションを自分のものに塗りたくるようにしながら、こすり付ける。兼続の脚を持ち上げると幸村は解いてもいない孔へと入れた。ローションを使ったとはいえ、慣らしていないそこは深い異物感を与える。
兼続は唸り、顔を顰めた。
直ぐに始まった往復される動きに、襞が離れないようにと食いつく。
「あ―っ、あぁ」
身体に撃たれたかのような痺れが走る。
手に脚に力が篭った。
幸村は奥深くを突く、そこは疼痛を感じながらも快感を促す。
「く…っ、あぁっ!!」
肌がぶつかり合う。あまりにも深く深くを抉られ、兼続は思わず腰を引いた。
「駄目です」
そう言われ、腰を掴まれる。
何度も突きたてられ、そして高みへと運ばれる。そして、絶頂を向かえても幸村はそれを止めることをしなかった。
「ゆきむら…っ!」
突かれ、嬌声を発し、吐き出される液体が白濁から透明なものに変わり果てても幸村は止めようとしない。痛みも感覚がなくなり、意識が遠のき始めた。
涙で濡れた視界がゆらゆらと揺れ動く。
手にも力が入らず、ベッドにだらりと落ちたまま。
「兼続殿…」
もう自分の意識がどうなっているのかままならなくなった頃、幸村が名を呼んだ。
虚ろな意識は眸を僅かに開かせる。
濡れた視界に幸村が映る。幸村は泣いていた。
泣きながらも兼続を抱いている。
「ゆき…」
手を伸ばそうとするが、力が入らず、ぱたりとシーツに落ちた。
「兼続…殿…」
その手を握ると、幸村は兼続の頬に頬を寄せた。
赤く腫れた手首。
兼続の頬にぱたたと、涙が落ちた。
その涙の温かさで、幸村もまた兼続が好きなのだと気付く。
戸惑っているのだ。あまりの感情の深さに。
嫌われるのが怖くて仕方ないのに、嫌われるようなことをし、兼続を試してしまう自分。
どう恋をしていいのか解らないでいた。
「ゆ…き……」
そんな幸村の真実を知り、兼続もまた同情などではなく恋なのだと知る。
不器用に恋をする幸村が好きなのだ。
いいのだよと優しく伝えようとはしたが、兼続はそのまま意識を失った。
すうっと途切れる意識の中、好きですと囁かれ、そして唇にあたたかな感触を感じたように思えた。
終
リクエストでした!遅くなりましてすみません。もらってやってください。
幸村は好きになりすぎて、感情に戸惑い、兼続をいたぶってしまうとかな感じです。
本当はアイスプレイっていうそんなのだったはずだ(最後関係なくなってしまった)
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