兼続の目の前に三成が居た。
三成は甲冑を着ていた。まるで戦場に行く武士のような姿の三成。
一度、兼続に向かって薄く笑うと、きりりと表情を引き締めた。

「行ってくる」

そうとだけ言うと、三成は兼続に背を向けた。
羽織模様の大一大万大吉の文字がゆらゆらと揺れる。

「三成…」

兼続は何か言葉を言わなくてはならないのだが、言葉が口から出てこない。

「三成!」

兼続は三成に向かって手を伸ばした。


そこで兼続は目を覚ました。兼続は手を伸ばしたまま。何も掴めなかった手を兼続は強く握り締めた。
汗が流れる。汗はパジャマを濡らすまでにかいていた。

「また、あの夢か…」

兼続はシャワーのお湯を頭から浴びながら、そう呟いた。
最近…三成と身体を重ねてから夢を見るようになった。いつも同じ始まり、同じ終わりの夢。
夢は何を意味しているのだろうか。その意味は解らず、同じ夢を繰り返し見る。

兼続は何度繰り返すその夢の話を三成にした。

「俺も見る」

三成はぽつりとそう言った。

「三成もなのか?」

聞けば、同じく武士のような甲冑を着た兼続に見送られる夢だという。
三成の話にはまだ続きがあった。

「その夢の中で兼続に見送られた後、俺は戦場に向かった。そして、戦をした。俺は戦を指揮をし、戦を何とか優先的に持っていこうとはするが、戦は裏切りものが出たりと苦戦を強いられ、そして、負けた…。……最後に負けた俺は斬首されるのだ。夢はそこで…兼続?」

話を聞きながら、兼続の眸から涙が溢れた。

「あ、あれ…何故か涙が止まらぬ…」

ぼとぼとと流れる涙。止まることなく溢れる。
伝った涙は洋服の胸元を濡らした。

「す、すまない…兼続…」

三成は兼続の手を握った。

「こんなことを話すべきではなかったな」

兼続は三成の恋人だ。夢の中とはいえ、その恋人が斬首された話など聞きたくないだろう。

「私は何か三成に言わなくてはならないのだ…何かを…何かを…」
「兼続?」

兼続はうわ言のように言葉を繰り返した。
その時だった。誰かが頭の中で三成の名を読んだ。
それは自分の声であった。頭の中で、自分は何かを自分自身に告げた。

「思い出した…」
「何をだ」
「あの日、言いたかった言葉を…三成…」

兼続は三成をしっかりと見据えた。

「愛してるよ、三成」

未だ泣き止まぬまま、兼続は微笑した。

「私は、三成に告げるために生まれ変わったのだ…」

夢の中の話は過去の自分たち。関ヶ原前の二人。
想いを伝えきれなかった二人は生まれ変わり、こうして再び愛し合ったのだった。

三成の手をしっかりと握り返すと、兼続は頬にその手を当てた。
愛おしさに微笑が浮かぶ。再び触れることが出来た、その手はとてもあたたかい。
生きている人のあたたかさがそこにはあった。

「兼続…俺は、最後の時…生まれ変わっても兼続に出会いたいと、そう願った…」

三成も思い出したのか、兼続の言葉に続いてそう言葉にした。

「叶ったのか…俺の望みは…」

三成は唇を強く噛んだ。目尻に溜まった涙を流さないようにするために。

兼続が三成の頬に手を伸ばした。優しく撫でる。
目尻周辺を指先でそっと撫でると、三成の眸から涙が零れた。指を伝って流れる涙を見ながら、兼続も涙を流した。

「兼続、俺も愛していたよ。そして、愛している」

最後まで遂げられなかった想いは深さゆえに二人を同じ時に生まれ変わらせた。そして、二人は再び巡り会い、愛し合う。













離れてしまった二人が生まれ変わって、また愛し合ったら良いなと思いながら考えた話です。





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